付記弁理士とは?「弁理士」とは違うの?
付記弁理士って何?
付記弁理士とは、弁理士の中でもさらに特別な試験をパスした弁理士です。今回は、付記弁理士とは何?というテーマで、付記弁理士について紹介します。
特別な資格
付記弁理士は、特定侵害訴訟代理業務試験に合格し、かつ日本弁理士会より弁理士登録にその旨の付記を受けた弁理士のことを指します。
付記弁理士は、特定侵害訴訟に関して訴訟代理人となることができる点で、特別な資格なのです。なお通常の弁理士は訴訟代理人にはなれず、補佐人になることができるにとどまります。
訴訟代理人と補佐人の違いの詳細についてはここでは省略しますが、一言で言えば訴訟代理人のほうが権限は大きくなります。
付記弁理士になる難易度
付記弁理士になるためには、上記のとおり、特定侵害訴訟代理業務試験(以後、簡単に付記試験とも言います)にパスする必要があります。この付記試験の合格率ですが、近年は50%前後です。令和3年度の試験の合格率は47.8%でした(特許庁:令和3年度特定侵害訴訟代理業務試験の結果)。
弁理士試験とは異なり、付記試験は受験資格が課されます。具体的には「日本弁理士会が実施する能力担保研修の課程を修了した弁理士」が受験できます。
この能力担保研修ですが、約20万円と費用がそれなりにかかります。研修期間は3か月程度です。毎回課題が課され、かつ研修講義については原則遅刻・欠席の許されないという、なかなか厳しい研修です。1回でも遅刻・欠席があると、研修の修了を認定してもらえなくなる場合もあります。
研修費用は大手事務所の場合、事務所にて負担してくれるところもあるようですが、実際のところは弁理士個人で負担するケースが多いようです。
付記試験の合格率自体は、弁理士試験と比較してさほど厳しいものではないのですが、受験資格を得るための「能力担保研修」の費用がそれなりに高く、また遅刻や欠席がほぼ許されず厳しい、という点が、付記試験の受験のハードルを上げています。
付記弁理士になるには
付記弁理士になるにはどうしたらよいか、さらに見ていきましょう。
まずは基礎知識の習得が必要
付記弁理士になるには、訴訟代理人としての基本的な知識を身に付ける必要があります。具体的には民法、民事訴訟法の知識を習得しなければいけません。
なお能力担保研修でも訴訟関連の分野について勉強し、付記試験でもこれらの分野の基礎知識が問われます。
能力担保研修
能力担保研修の厳しさについては上記で説明したとおりです。通常は、多忙な業務をこなしながら研修を受ける必要があります。
そのうえ研修の開催場所は東京、大阪に限られます。希望者が多いと名古屋開催が追加される場合もあります。
地方在住の弁理士は、講義のたびに東京または大阪に出向いて受講する必要があります。地方在住の弁理士にとっては、移動の時間や費用の負担も大きくのしかかりますので、本当に大変です。
付記試験(特定侵害訴訟代理業務試験)
研修を終えたら付記試験を受験しましょう。
付記試験は、年1回開催されます。例年、10月中旬~12月の間のどこかで実施されます。通常は10月中旬の日曜日、というパターンが多いです(ここ数年、コロナの関係で後ずれしたことがありました)。
試験は1日で終わりますが、1日缶詰めとなります。試験が終わる頃にはぐったりとするでしょう。
付記弁理士になるメリット
受験のハードルが高めの付記弁理士ですが、付記弁理士になるメリットはあるのでしょうか。
単独で訴訟を代理することができる
通常の弁理士資格保持者より、訴訟の手続きを格段に早く進められるというメリットがあります。
付記弁理士になると、特定侵害訴訟について、弁護士と同格で訴訟代理人になることができます。原則は弁護士とともに出頭する必要がありますが、裁判所が認めるときは、単独で出頭できます。
特定侵害訴訟に関しては、弁理士と同様の権限が与えられるので単独業務が可能になり、結果、手続きの進めやすさが格段に上がるのです。
能力を証明できる
訴訟手続きに関する知識を有することが証明できるのも、付記弁理士になるメリットです。
また付記試験では、主要な判例に基づいた問題も出題されます。このため主要な判例についての理解があることの証明にもなります。
このように付記弁理士であることで、能力を証明することができますね。クライアントからの信頼もより厚くなり、信頼・信用の獲得や、依頼増に結びつくことが期待できます。
基礎知識が身に付く
付記試験の勉強・受験を通して、訴訟手続きや判例に関する基礎知識が身に付きます。
このような知識は実務に直結します。知識の向上、スキルアップにダイレクトに結び付き、特許明細書といったアウトプットの品質も向上します。
ここで、付記弁理士を目指す人にとってはややネガティブな話になりますが、諸外国と比較して、日本における知財に関する訴訟は多くありません。むしろ、かなり少ないといっても良いでしょう。その点では、付記弁理士の資格が役に立つ場面というのは実は少ないというのが現実ではあります。
しかしながら、ここであげた「基礎知識が身に付く」、というメリットはやはり大きく、自身のスキルアップを目的に受験する人も多いです。
資格取得する?しない?付記弁理士のニーズ
特別な資格である付記弁理士ですが、ニーズはあるのでしょうか。
依頼者(権利者)目線のニーズ
権利者からすると、一定の訴訟知識を持っている付記弁理士の方が、そうでない弁理士に担当してもらうより嬉しく、安心感があります。
また知財訴訟の場合、たいていは弁護士と共同で代理することになります。弁護士は訴訟手続きのプロです。実際の訴訟においては、訴訟手続き全般については弁護士が主導し、発明の内容など技術的な部分に関しては弁理士が主導する、という役割分担となることが多いです。
その場合でもやはり、弁理士が訴訟手続き全般について理解があるかどうかによって、訴訟対応のスムーズさも変わってきます。
ですから知財訴訟の場面において、付記弁理士のニーズは高まります。
ただし、先のとおり国内における知財関連の訴訟は非常に少ない状況です。年間、せいぜい100件~200件程度です。
弁理士の数が12,000人弱ほどですから、訴訟を経験しない弁理士のほうが多数と言えます。言い換えると、付記弁理士であるからといって、訴訟の経験が多い、豊富である、とも言い切れません。
そのような状況であるため、依頼者から見れば、付記弁理士であるかは重要度の低いポイントにはなるでしょう。
弁護士目線ニーズ
上記のとおり、知財訴訟では、弁護士と弁理士(付記弁理士)とが共同で代理することが多くなります。弁護士から見て、弁理士が訴訟手続きについて理解しているかどうかは、訴訟を有利に進める上で重要な要素になります。
弁護士目線でも、付記弁理士のニーズは高いと言えます。
まとめ
付記弁理士は、弁理士のなかでも特別な弁理士です。
付記試験をパスし登録を受けることで、特定侵害訴訟について訴訟代理人になることができ、さらに裁判所が相当であると認めるときは、弁護士と共同ではなく、単独でも代理することができます。
従来、訴訟の代理は弁護士の専権業務でした。知財訴訟に関して弁理士の立場がより大きくなり、責任範囲がより拡大されたのです。そして、その責任範囲を担うのが付記弁理士です。
知財の重要性がますます増大するなか、付記弁理士のニーズも今後より高まってくるでしょう。
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エンジニア出身です。某一部上場企業にて半導体製造装置の設計開発業務に数年携わり、その後、特許業界に転職しました。
知財の実務経験は15年以上です。特許、実用新案、意匠、商標、に加えて、不正競争防止法、著作権法、など幅広く携わっています。
諸外国の実務、外国法にも長けています。