知的財産翻訳検定とは?現役知財部員が解説します。

知的財産翻訳検定とは?試験概要

みなさんは、知的財産翻訳検定をご存じでしょうか。本検定は、日本で唯一の知的財産翻訳能力認定専門機関が実施している知財翻訳試験で、2004年12月より実施されています。

本試験の目的は、知的財産翻訳の中心である特許明細書などの知的財産に関する翻訳能力を、客観的に測定することです。

日本企業が海外に特許出願を行う際に必要となる明細書の翻訳には、通常の技術や翻訳力に加えて、特許特有のものの考え方や国際的に確立されている種々の専門知識が求められます。

本検定の資格を取得することで、自身のキャリアアップをしやすくしたり、企業や特許事務所からのオファーを受けやすくしたりできるのではないでしょうか。

本記事では、知的財産翻訳検定の形式や日程をはじめとした概要だけでなく、勉強法や資格取得後のメリットなどをまとめました。

ぜひご覧いただき、知的財産翻訳検定の資格取得を、今後のキャリアの選択肢の一つとしていただけるとうれしいです。

試験の形式は?

英語の場合の試験形式は、以下の3つがあります。

  • 筆記(記述式)
  • 筆記(選択式)
  • 面接

知的財産検定は1級〜3級とレベルが分かれていますが、級によって試験の形式が異なります。

1級と2級は記述のみで、3級は記述と選択の両方の形式での出題があります。1級の記述試験は、こちらの5分野から1つ選択して受験する形式です。

  • 知財法務実務
  • 電気・電子工学
  • 機械工学
  • 化学
  • バイオテクノロジー

また1級は記述試験の合格後に面接試験があります。英語以外の外国語の場合の試験形式は、記述のみです。

何語の試験がある?

試験対象となっている外国語は「英語」「ドイツ語」「中国語」の3つです。

近年、とくに中国におけるPCT出願の件数が増加傾向にあります。

2020年の中国のPCT出願件数は、欧州とアメリカよりも多くなっています。

複数の級が設けられているのは英語のみですが、出願件数の傾向から、中国語の資格を取得するのも今後のキャリアの選択肢の一つではないでしょうか。

中国語に関しては、日本知的財産協会により、日中知財翻訳者育成事業が行われています。それだけ、中国語で記載された明細書の翻訳の需要が高まっているのかもしれません。

試験の日程は?

春と秋の年2回、試験が実施されます。

春試験実施時期:4、5月頃
秋試験実施時期:10、11月頃

春の試験は4、5月頃、秋の試験は10、11月頃に実施されますので、申し込みを検討されている方は、日本知的財産協会のホームページにて詳細を確認してみてください。

英語試験の日程

春試験和文英訳
秋試験英文和訳

英語の場合、春試験は和文英訳、秋試験は英文和訳の試験になります。

その他の語学の試験実施時期は秋のみです。

英語の場合においても、和文英訳のみしか受験されない方は、年に1回しか受験することができません。

ただし、試験時間は級ごとに異なるため、自身の学習状況にあわせて、併願することが可能です。

受験料は?

受験料は受験する言語や級によって異なります。

英語の試験の受験料は、1級が15,000円、2級が10,000円、3級が5,000円です。

中国語とドイツ語の受験料は、いずれも10,000円になります。

決して安くはない受験料です。1年に1回の受験のために日々勉強をし、ぜひとも初回で合格したいところです。

どんな人におすすめの資格?

当然かもしれませんが、現在のお仕事で、特許出願の翻訳業務をされている方にとってはおすすめの資格と言えるでしょう。

資格をお持ちであれば、企業からのオファーが届きやすくなると考えられます。

とくに1級に関しては、日本知的財産協会のホームページに合格者が掲載されます。

勤務先も記載されるため、弁理士事務所に翻訳者が勤めている場合、事務所自体への依頼件数が増えることも期待されます。

事務所を経営されている方は、所員の資格取得を推進するのもよいかもしれません。

フリーランスとして翻訳者をされている方は、特許事務所に勤めている方よりもおすすめの資格と言えるでしょう。

弁理士事務所の方と同等、もしくは、それ以上の能力を備えていることをアピールできる、格好の資格なのではないでしょうか。

資格の有効期限はある?

資格の有効期限は2年間です。

登録できる翻訳者区分は下記の3種類です。

  • Advanced Professional Translator (APT)
  • Professional Translator (PT)
  • Paraprofessional Translator (PPT)

それぞれ実務経験などの登録要件が定められています。

資格保持にかかる費用は?

資格保持にかかる費用は「申請費用」と「登録費用」の2種類があります。

申請費用は5,000円かかり、別途登録費用として

  • APT:25,000円
  • PT:20,000円
  • PPT:15,000円

が必要です。

知的財産翻訳検定の難易度は?

各試験の難易度は以下のようになっています。

英語における、1級の難易度は、知的財産分野における専門職業翻訳者として推薦できるレベル、2級の難易度は、特許明細書翻訳の基本を理解し実務に堪える力があると認められるレベル、3級の難易度は、入門者・初心者レベルです。

中国語とドイツ語の試験の難易度は、特許明細書翻訳の基本を理解し実務に堪える力があると認められるレベルとされています。

合格率は?

英語の試験の合格率は、毎年若干のばらつきはありますが、下記の通りです。

1級15%程度
2級30%程度
3級80%程度

また、外国語の合格率は、中国語が40%程度、ドイツ語は10%程度です。

中国語40%程度
ドイツ語10%程度

2021年秋の合格率

受験者合格者合格率
英語:1級581220.69%
英語:2級311548.39%
英語:3級261869.23%
中国語15853.33%
ドイツ語1119.09%

直近の、2021年の秋に行われた試験の答案提出者数に対する合格者数の割合は、1級が12/58名、2級が15/31名、3級が18/26名、中国語が8/15名、ドイツ語が1/11名です。

どの資格にも共通して言えますが、レベルの高い試験のほうが合格率が低くなります。

勉強時間は?

知的財産に関する知識のレベルにもよりますが、1級を取得を目指す場合、少なくとも数年の勉強期間が必要と考えておいたほうがよいでしょう。

知的財産翻訳検定の資格を取得するための翻訳学校があります。例えば、サン・フレア・アカデミーがあげられます。

こちらの講座の受講期間は初級と中級が半年、上級が1年です。

なお、中級講座においては、TOEIC730点以上のスコアを取得している方、という対象者の推奨条件があります。

知的財産の知識とあわせ、語学をこれから勉強するとなると、さらに勉強時間が必要になるでしょう。

1級、2級、3級の内容まとめ

さて、ここまでの1級、2級、および、3級の内容をまとめると、以下のようになります。

1級2級3級
試験形式記述※記述試験に合格した受験者は、面接試験を行う記述記述および選択
分野知財法務実務、電気・電子工学、機械工学、化学、および、バイオテクノロジーのいずれか1分野を選択選択分野なし分野選択なし
試験日程春、秋の年2回春、秋の年2回春、秋の年2回
試験時間(化学、機械工学)9:00~12:00(知財法務実務、バイオテクノロジー、電気・電子工学)14:00~17:0014:00~17:009:00~12:00
受験料15,000円10,000円5,000円
難易度知的財産分野における専門職業翻訳者として推薦できるレベル特許明細書翻訳の基本を理解し実務に堪える力があると認められるレベル入門者・初心者レベル
必要勉強時間(通信講座期間)半年半年一年
合格率(2021年10月)(合格者/答案提出者)12/58名15/31名18/28名
有効期限2年2年2年

おすすめの教材は?

知的財産翻訳検定の資格取得に興味を持ってくださった方のために、勉強の教材に関して説明します。

おすすめの教材はズバリ過去問です。

資格の勉強方法としては、過去に出題された問題を解くこと、講座を受けて知識を補うことなどがあげられるでしょう。

資格取得のためにどのようなことを勉強するのか、イメージを膨らませるための参考になればと思います。

過去問は無料で手に入る!

まず、どんな資格の勉強にも欠かせない教材であろう、過去問について説明します。

なんと、知的財産翻訳検定の過去問は、日本知的財産協会のホームページより、無料で入手できます。

公式問題集の購入費が不要であることは、勉強を始めるハードルを下げられるのではないでしょうか。まずは過去問を見ていただき、現在の知識でどの程度回答できるのか確かめてみるとよいかもしれません。

上述もしましたが、知的財産翻訳検定に関する通信講座があります。

翻訳検定の専門学校や、日本知的財産協会が開催しているセミナーを利用すると、勉強の効率が上がると考えられます。

どちらの講座も添削をしてもらえるので、記述形式が含まれる検定において、強い味方になるでしょう。

資格取得のメリット

資格取得後の自身のキャリアをイメージすることは、勉強を始める際のモチベーションをあげてくれるでしょう。

ここでは、資格をどのように活かせるのかを説明します。

転職時に有利

資格を取得することで、転職に有利になるでしょう。

社内や事務所内のメンバーからは、資格がなくても実務の実績から評価を得られると思います。しかし、第三者からの正当な評価を得るためには、資格の取得が望ましいと言えます。

特許出願の明細書の翻訳のためには、語学と知的財産の両方の知識が必要になります。それらを評価する上で、資格はわかりやすい指標の一つになるでしょう。

1級取得者は公式HPに掲載される!

知的財産翻訳検定のホームページでは、1級取得者を掲載しています。

そのため、資格者はみずから各企業にアプローチせずとも、仕事や転職のオファーを受けられることが期待できます。

企業や事務所としても、1級の保有者が所属していることをホームページにて公表する恩恵は小さくないと考えられますので、社員の資格取得を推進してみてもよいかもしれません。

まとめ

ここまで本記事を読んでいただき、いかがでしたでしょうか。

知的財産翻訳検定の内容について、すこしでも新しい発見がありましたらうれしいです。

外国語で記載された特許出願の明細書の翻訳需要は満たされていません。

人材が求められ続けている中で、本検定の資格を所有していることは、大きな武器となるでしょう。

知的財産に関わる仕事をされている、これからされる予定の方で、興味を持ってくださった方がいらっしゃいましたら、まずは、無料で公開されている過去問を確認いただければと思います。

2021年には、コーポレートガバナンス・コードが改定されました。

それに伴い、企業における知的財産の重要度は増していくと考えられます。

よって、翻訳者の需要もますます増加するでしょう。

ぜひ一度、知的財産のフィールドで活躍されるために、知的財産翻訳検定の資格取得について、検討されてはいかがでしょうか。

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