ロボジョ!杉本麻衣のパテント・ウォーズ【書評】

知的財産制度を学ぶことのできるエンターテイメント小説、それが本作です。知的財産権を題材にした小説としては『下町ロケット』が有名ですが、本作は「知的財産権を学ぶ」ための工夫を凝らした内容となっています。

そのため作品中には、特許権、著作権、ライセンス制度、無効審判、冒認出願などの知的財産制度の説明がちりばめられています。また巻末には知的財産権に関するコラムが、ストーリーに沿った形で書かれています。

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私としては、小説の中に無理なく知的財産権が組みこまれており、小説として違和感なく楽しく読めた点に衝撃を受けました。というのも、法律の文章と小説の文章は書き方が全く異なるため、使い分けが非常に難しいからです。

知的財産権を仕事で扱っている方は、この文章の違いに着目してみると面白いと思います。

あらすじ

主人公の杉本麻衣は、大学入学直後にロボット研究会を創設し、1年もたたないうちに「お手伝いロボット選手権」で優勝しています。その活躍ぶりから、麻衣は「ロボジョ」と呼ばれています。

麻衣は「お手伝いロボット選手権」の2連覇を達成すべく、ロボット研究会の仲間と共に、ロボット搭載用の画期的な技術を開発しました。

しかし、この技術が何者かによって横取りされそうになります。麻衣達は、知的財産権を駆使して、この技術を守り、「お手伝いロボット選手権」の優勝を目指します。

本作の特徴

本作の特徴としてストーリー中、知的財産制度の説明が登場者による会話形式でなされている点があります。

会話形式による説明の一例としては、プログラムをコピーした者に対して、プログラムをそのまま他人の機械に実装したのか、と問い詰めたところ、プログラムを書き換えて実装した、と答える場面があります。

具体的には、

「再現したソースコードは、そのままロボットに実装したのかしら?」

「いいえ。さすがにソースコードをそのままコピーするのは気が引けたので、念のため、プログラムを全面的に書き換えて実装しました。その後、食材の認識率は大きく向上しました」

鈴木弁理士が喜太郎に尋ねた。

「全面的に書き換えたというのは、著作権侵害を回避するためかな?」

「そ、そんなことは知りません。そのままコピーすることに罪悪感を抱いただけです」

とすることで、プログラムをコピーして実装するのは著作権侵害であるが、プログラムを書き換えて他人の機械に実装するのは著作権侵害ではない、という説明をストーリーの中でしています。

またコラムでは、特許権侵害の攻防として取りえる法的措置が説明されています。この解説ですが、知的財産権の専門書からは少し言い回しを変えて、専門家でない方に理解しやすいように工夫されています。

具体的には、商標権による保護のところで、

『商標法で言うところの「商標」とは、他の商品・サービス(法律用語で「役務」といいます)と区別するための目印(営業標識)のことです。』

と書かれているところがあります。本作のコラムではこのように、専門用語とかみ砕いた表現を併記することで、知的財産権の専門家でない方にも理解しやすいよう配慮がされています。

著者である稲穂健市は弁理士であり、知的財産権の専門家でない方をターゲットとした書籍を、いままでにも出版した実績のある方です。

本作は、知的財産権に興味はあるけれど難しい、と感じている方のみならず、知的財産権の担当者でない方に知的財産権を説明する場面がある専門家にも、おすすめの書籍です。

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