知財実務のツボとコツがゼッタイにわかる本【書評】
世の中には知財の実務書が数多くありますが、それらの書籍は知財実務の初心者には知識レベルが高く取っつき難い内容のものが多いです。
この点、本書は知財の初学者を想定して作られているため、従来の実務書よりも読みやすい内容となっています。
また知財の基礎知識から知財戦略まで網羅的に記載されているので、既に知財実務に従事している方も知識のブラッシュアップができる最適な一冊となっています。
著者である酒谷誠一弁理士は、東京大学でIT系の博士号を取得しており、現在はベンチャー企業向けに知財の啓蒙活動や知財戦略の提案などを行う専門家です。
私は酒谷氏が理系出身であったことから、本書は特許がメインで語られるものと考えていました。しかし実際の内容は予想と大きく異なるものでした。
例えば第5章「会社立ち上げ段階の注意点を押さえよう」のうち「2.ホームページ作成の際の知財面の注意点は?」では、ECサイトで商標登録すべき商標だけでなく、おすすめの指定商品・指定役務までもが触れられています。
またドメイン名に関する注意事項として、他人の著名な会社名や商品名・サービス名のドメイン名を取得した場合、不正競争防止法によりドメインの差し止めや損害賠償リスクがあることも述べられています。
さらにホームページで他人の著作物を利用する場合は、引用の条件を満たさなければ著作権侵害になり得るという点についても漏れなく記載されていました。
このように本書は特許法だけでなく、意匠法や商標法、不正競争防止法、著作権法などの幅広い法域の観点から、ビジネスを進めていく上での注意点が網羅的に説明されているのです。
本書の最大の魅力は、知財の注意点が事業の進行の段階別に解説されている点です。具体的には以下の4章構成で4つの段階に分けられます。
- 第5章 会社立ち上げ段階の注意点を押さえよう
- 第6章 企画・開発段階の注意点を押さえよう
- 第7章 提携段階の注意点を押さえよう
- 第8章 販売後の注意点を押さえよう
私はメーカーの知財部に所属しており、模倣品被害に遭遇することが多くあります。
この点、本書では被害状況に応じた対策例が記載されています。
具体的には、風評被害が懸念される場合と懸念されない場合とで分けて考え、模倣品販売相手を排除するか提携するかを判断するというものでした。
この判断のプロセスは今後の私の実務で大いに役立てられると感じました。また、これから模倣品被害を経験する知財担当者にとっては、迅速に対応を進めていく上での良い判断材料になるでしょう。
本書はこれから知財担当者として活躍する初心者や、実務経験者で新たな知見を得たい方には最適な良書です。
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知財業界歴10年。 都内大手特許事務所勤務を経て、現在は一部上場企業の知財職に従事。 知財がより身近に感じる社会の実現に貢献すべく、知財系Webライターとしても活動中。