レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い? 特許・知財の最新常識【書評】

「特許出願は『アイデアを盗んでください』と、全世界に宣言すること」
特許出願さえすれば自分の技術が守られると考えている方にとっては、衝撃的なメッセージですね。

本書は主に、特許取得に頼りすぎることの危険性と、特許を有効的にあつかうための戦略を学ぶことができます。

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著者である新井信昭弁理士は、これまでに3,000件以上の知財コンサルティングを行い、1,000件以上の特許・実用新案の出願に携わった知財のプロフェッショナルです。

その経験の中で著者は、「特許出願を望む方のほとんどが『特許出願さえすれば、特許庁によって自分の技術が自動的に半永久的に守られる』と思っている」と語っています。

たしかに、これは危険な誤解でしょう。なぜなら特許出願をした場合、あなたの大切なアイデアは出願をした日から1年半後にインターネット上に公開されてしまうからです。これを出願公開制度といいます。

この制度を知らず闇雲に特許出願をして、アイデアを全世界にさらしている人が多くいるということでしょう。その結果せっかくのアイデアは世界中でパクられ続け、自らのビジネスを苦しめることとなるのです。

また新井氏はこのような特許法の性質を踏まえたうえで、特許というものを「知財に着せた透明な防護服」と表現しています。

防護服を着ていれば外敵からは守られるが、透明なので中身は丸見えになっているのが由来とのことです。

このように出願公開制度をしらなかったために、大切なアイデアが世界中でパクられ続けるような事態を阻止するためには、知財人材のスキルの底上げが必要と私は考えます。

実際に著者も「知財コミュニケーション力」の向上を提唱しています。

本書において知財コミュニケーションは「お互いの興味や利益のためにする、知財に関する情報交換」を意味します。そして「知財に関する情報」の中に知財に関する基礎知識や制度が含まれているのです。

この知財コミュニケーション力を持つ人材が増えることで、アイデアが世界に流出するような事態を打破できると新井氏は考えています。

そして知財コミュニケーション力を身につけるための手段として、「知的財産管理技能検定」を推薦しているのです。

私自身2級を保有しており、知財実務に必要な最低限の知識が得られることを実感しました。そのため著者が知的財産管理技能検定をオススメしていることに強く共感しています。

そして本書の最終章である第6章では、どのような戦略をとれば特許を戦略的かつ有効に使うことができるかについて解説されています。具体的には、オープン・クローズ戦略の重要性が強調されています。

愚直に特許出願をして大切なアイデアを全世界にさらすのではなく、アイデアをオープンにしてよい部分とクローズにすべき部分とに戦略的に線引きするのです。そして、大切なアイデアを守りつつ収益化することを著者は推奨しています。

私は海外への技術流出を戦略的に防ぐ方法論を知らなかったため、オープン・クローズ戦略の知識を大いに実務に役立てることができました。

本書はまだ特許出願をしたことがない初心者や、これまで戦略的に特許出願をしてこなかった方にとっては最適な良書です。

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