訴訟よりも活用しやすい?知財権の問題解決を助ける知財調停とは

知財調停を活用し知的財産権にまつわる紛争を解決しよう

特許・意匠・商標をはじめとした知的財産権においても、権利をめぐる紛争が起きています。

知的財産権をめぐる紛争は、これまでは訴訟・裁判といった手段により解決されていましたが、2019年10月より、知財調停と呼ばれる民事調停制度が新たに導入されました。

知財調停は、知的財産権に関する紛争について、早期のうちに中立・公正な立場の専門家の見解を聞き、当事者間の話し合いにより簡易的・迅速に解決することを目的としています。

本記事では知財調停の概要や活用のメリット、費用、実際の活用方法をご紹介します。

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知財調停とは?導入の経緯

知財調停は、これまでの知的財産権にまつわる紛争に比べ、かかる費用を抑え、かつ迅速に問題を解決したいというニーズに応えるために導入されました。

知的財産権は独占排他権であるため、権利侵害があった場合には訴訟といった争いが避けられません。

ここで、争いの解決方法は必ずしも訴訟が望ましいというわけではありません。

なぜなら訴訟を起こすと当事者には以下のようなデメリットが生じることがあるからです。

  • 多額の費用がかかる(1,000万円以上かかることもある)
  • 争いが長期間に及ぶ(1年以上かかることがほとんど)
  • 第三者に秘密情報が公開されるリスクがある(いずれの当事者にとっても不利益となる可能性がある)
  • 話し合いの結論を柔軟に変更できない(訴訟は賠償金といった特定の請求を行う必要がある)

これらのデメリットの解消を目的とし、導入されたのが知財調停です。

もちろん裁判を利用するのが望ましいこともあります。それは明らかに相手が故意で権利を侵害しており、相手の行為を止めたい場合や損害分の賠償を請求したい場合などです。

知財調停と訴訟は何が異なるのか?

知財調停と訴訟は、具体的に下表のような特徴の違いがあります。

知財調停訴訟
第三者への公開なしあり
申立をしてから結論が出るまでの期間原則3回の期日(半年以内での完結を目安とする)一般的に3回よりも期日が多い(1年以上かかることがほとんど)
結論の出し方当事者間の合意判決

第三者に公開されず、当事者間で迅速かつ穏便に解決するのが知財調停の特徴です。

特定の請求が認められるかの判決を下すわけではなく、当事者が納得できる状態を結論とするため、進行する際の柔軟性が高いのも特徴的です。

これらの特性を踏まえると、具体的には以下のような場面で知財調停を活用できます。

  • 知財権に関する契約の締結を前提に交渉を進めているが、当事者間で見解が一致していない場合
  • 特許権侵害の有無に関しては当事者間で見解が一致しているが、賠償金の支払いといった解決方法について合意に至っていない

一方で、あまりにも当事者間における見解の相違がある場合は、訴訟を活用するのが望ましいでしょう。

知財調停を活用するメリット

ここからは、知財調停を活用することにより得られるメリットをさらに詳しくご説明します。

主なメリットは以下の5つです。

  1. 第三者に対し非公開である
  2. 紛争解決までの期間が短い
  3. 費用対効果が大きい
  4. 訴訟と遜色ない高い専門性に基づき解決される
  5. 実行の難易度が低く柔軟性が高い

これらのメリットは、東京地方裁判所や大阪地方裁判所から挙げられているものです。

知財調停の立案者側が認識しているメリットを活かすことで、これまで着手できていなかった問題の解決が期待できるでしょう。

1.第三者に対し非公開である

申立の有無を含めた手続きを非公開で進められるのは、当事者にとって大きなメリットであると言えます。

知的財産権の紛争を進めるときは、企業秘密や権利化された特許が無効となる可能性など、両当事者ともに第三者に知られたくない情報が少なくありません。

これらの情報を扱うなら、第三者に情報を入手される心配のない知財調停は、利用しやすい制度です。

争い事をできるだけ当事者同士で穏便に解決する傾向のある日本人にとって、各当事者間で合意するか否かを穏便に交渉・決定できる知財調停は、なじみやすく有効な解決方法ではないでしょうか。

2.紛争解決までの期間が短い

知財調停の申立から完結までの期間は、訴訟よりも短く、半年以内を目安としています。

一年以上かかることがほとんどである訴訟と比べて、当事者の人材や費用の負担を抑えられます。

専門家の意見を聞きながら半年間で穏便に解決することを目的にする知財調停は、紛争の最初の段階において利用しやすい手段でしょう。

最初から訴訟を起こすのはハードルが高いから、知財調停を準備段階として利用する、という使い方もあります。

仮に調停自体が不成立に終わっても、交渉の過程で相手の意図を探ったり調停人の客観的評価を知ったりできるので、それをその後の紛争解決に役立てられます。

3.費用対効果が大きい

知財調停は、比較的費用を抑えて問題を解決できるのもメリットの一つです。

知財調停においては、以下の費用を日本知的財産仲裁センターに支払います。

  • 申立手数料: 47,620円
  • 期日手数料: 47,620円/回
  • 和解契約作成書・立ち合い手数料: 142,858円

※全て税抜き、2022年5月時点

このほか各種実費等も発生するので、総額はもう少し高くなりますが、知財訴訟と比較すれば圧倒的に低料金で問題解決まで導けます。

訴訟となると、1,000万円以上の費用がかかることもあります。期間も、大多数の案件は1年以上の時間が必要です。

なお調停を進める上で、知財の専門家から構成される調停委員会に意見を伺うことがありますが、この際に追加の費用はかかりません。

また調停が不成立になった場合は、不成立の通知を受領後2週間以内に、同一の内容で訴訟を起こすことで上記申立手数料が提訴の手数料から控除されます。

費用対効果の観点から、案件によっては訴訟を起こす前の知財調停の利用を検討してみてもよいかもしれません。

4.訴訟と遜色ない高い専門性に基づき解決される

調停よりも訴訟の方が高い専門性に基づき解決されると考える人も少なくないでしょう。

実際は、調停の専門性は訴訟と遜色ないと言えます。

知財調停における調停委員会は裁判所知財部の裁判官である調停主任1名と、知的財産権に関する紛争事例の解決に経験や知見がある裁判官OB、弁護士や弁理士などから選任された2名の調停委員から構成されます。

日ごろから知財事件の紛争解決に携わる現職の裁判官が調停委員となるうえ、必要がある場合には裁判所調査官による調査も可能です。

よって、知財調停においても高度の専門性・客観性を有する意見を得られます。

5.知財調停は実行の難易度が低く、柔軟性が高い

知財調停は特定の請求が認められるか否かを判断するものではなく、当事者間の合意により調停成立を目指す手続きです。

そのため、より柔軟な紛争解決が期待できます。

例えばビジネスの現場では、知的財産権をめぐって契約の締結を目指し、当事者間で交渉することが多くあります。

交渉を進める際に両当事者は、単に交渉自体をまとめるだけでなく、相手方と円満な関係を築きたい、あるいは維持したいと思っていることが少なくありません。

この紛争当事者のニーズを満たせているのも、知財調停の魅力の一つです。

また、必ずしも調停にて結論を出さなくてもよいという柔軟性の高さも活用しやすい理由の一つです。

実際知財調停は、申し立てをした後に取り下げることもできます。

まとめ

知財調停の導入によって、費用・時間がかかる、第三者に公開されるなどの課題が解消されました。

知的財産権にまつわる問題を解決する際、知財調停を選択肢の一つとして検討してみてください。

知財調停は導入されてから2年半ほどしか経過しておらず、2021年3月までの申立件数は20件程度です。

また、調停申立の有無を含めた手続き内容が第三者に公開されないため、具体的な活用方法に関する情報を入手しづらい状況です。

知財調停活用の可能性はこれからも検討され、最適化されていくでしょう。

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