「ビジネスの当事者として知財を扱いたい」知財の楽校・玉利 泰成氏【キャリアインタビュー】
株式会社知財の楽校の代表取締役社長として、そして株式会社PolyuseのBizDev知財戦略マネージャーとしても活躍している玉利泰成氏。
大企業の知財部で経験を積み、現在は社長&ベンチャー企業社員という複業スタイルで働いている玉利氏に、キャリアについてのお話を伺ってきました。
【今回インタビューした方】
◆玉利泰成氏(株式会社知財の楽校 代表取締役社長/株式会社Polyuse BizDev知財戦略マネージャー)
筑波大学大学院を修了後、2014年4月出光興産株式会社入社。コーポレート系の知的財産部門にて知財実務全般に従事した後、新規事業立ち上げ期のリチウム電池材料部に移り開発現場で知財戦略の立案と推進に携わる。
2021年2月副業で知財教育サービスの個人事業を開業し、同年8月法人化を経て株式会社知財の楽校の代表取締役社長に就任。2022年11月建設テックベンチャーの株式会社PolyuseにBizDev知財戦略マネージャーとしてジョイン。特技は図解、趣味はサウナ。
学生時代にやっていたこと
――学生時代は、どんなことを専攻していましたか?
玉利氏(以下、玉利):学生時代は、筑波大学の理工学群・応用理工学類で過ごしていました。大学院に関しても筑波大学に進み、金属系の分野、特に形状記憶・超弾性合金に関する新規材料の検討を中心に3年間研究をしていました。
広く技術系の学問を知りたいというモチベーションがあったので、どの講義も割と真面目に出席していました。実は6年間通してほぼ皆勤賞、そんな学生時代でしたね。
――非常に充実した学生時代ですね!
玉利:もちろん、研究や講義以外にも色々なことを楽しみましたよ!
スポーツも大好きで、アルティメットというフライングディスクを用いたスポーツのサークルを6年間やっていました。
同じ学類の仲間とイベントを企画するのも好きで、例えば実際にちゃんと駅を移動していく東京メトロすごろくバトルを開いたり、茨城県内の地図で当たった場所まで競争するママチャリダーツの旅を企画したりしました。笑
――筑波大生らしい企画ですね笑
※筑波大学は構内がとても広く、みんな自転車移動で講義に向かいます。
就活は「ビジネスの当事者として知財を扱っていきたい」
――新卒時は出光に入社されたとのことですが、どういう風に就職先を探したのでしょう。
玉利:私は大学の頃からどうしても知財の仕事がしてみたいという想いがありました。
就活では、知財担当の募集がある企業や特許事務所の説明会にも足を運び、知財に関わる仕事は広く見ていました。
ただ私自身が研究開発系の事業、ビジネスの当事者として知財を扱っていきたいという軸が一本ありましたので、色々見た上で企業知財部を目指すことにしました。
念願叶って出光興産の知財担当の内定をもらえた訳ですが、「研究開発の卵の段階の技術から、未来を想像して知財を考えて事業立ち上げに挑戦したい」と思い、入社前から新規事業を担当したいと熱烈にアピールし続けていました。その甲斐あって、入社後すぐに新規事業化を目指す材料開発の知財担当として配属をしてもらえました。
――出光興産への入社を決めた理由は?
玉利:出光は石油を中心にエネルギーインフラというすごく大きな基幹事業を営んでいますよね。その一方で、石油の需要は先細りで、事業ポートフォリオをドラスティックに転換していかないといけない状況にもありました。
そういった背景もあり、出光は巨大な既存事業を世の中のインフラとしてきっちり維持しながら、多種多様な研究開発テーマに取り組んでいました。
古くからの社会的意義を全うしながら、事業ポートフォリオ転換に向けた新規事業創出のための研究開発に果敢に挑戦する会社の知財はきっと面白い、そんな想いで出光を志望するに至りました。
知財に興味を持ったきっかけは、TV
――学生時代から知財の仕事を志していたとのことですが、きっかけは何だったのでしょう?
玉利:最初のきっかけは、大学1年生の頃にTVで弁理士の説明を聞いた時だったと思います。
それで「こんなに面白い仕事があるんだ」と思って、本やネットで仕事内容などを色々と調べ始めましたね。
なぜ興味を持ったのかを振り返ってみますと、大きく2つ理由がありまして。
まず僕は技術はめちゃくちゃ好きなんですが、個別のテーマを極めていくよりかは、色々な分野のスーパー研究者が取り組んでいる新技術が広く気になっちゃうタイプです。なので、自分自身で深堀りをしきるスタンスよりは、そういった研究者と接点を持ちながら幅広く新技術に携わっていきたいというモチベーションがありました。
それから、1本スペシャリストとしての専門性は発揮しながらも、やっぱりビジネス全体に入り込みたいという思いもありました。
そうしたなかで、技術の本質とビジネス構想の両方に独特のポジションで関われる可能性を秘めた仕事として知財を知り、急激に興味を持ってグワーッと調べていったのを覚えています。笑
知財部一本時代の悩みは
――知財の楽校をはじめる前、会社員1本の時にはどんなキャリアの悩みがありましたか?
玉利:私は入社当初、いわゆるコーポレート系の知的財産部門、知財部の中で特許出願をはじめとする実務全般を5年やってきました。
先程申し上げた通り私は元々、技術の本質や面白さに触れながら、それらをビジネス構想に繋ぎ込むことにもバランスよく関わりたい、という意図があって知財の世界に入ってきています。
一件一件の個別の実務の中でビジネスを想定することは出来るんですが、事業そのものをどう構想していくかという企画段階にまで知財部の実務担当の立ち位置から入り込もうとするのは、正直難しさも感じていました。
――では、その悩みを解消するために、どんなことをしましたか?
玉利:コーポレートとしての知財部門の意義は理解しつつも、やはり一度はビジネスづくりの当事者として知財を取り扱いたいという想いから事業部門に飛び出したいという希望を出すようにしていて、実際に新規事業立ち上げ真っ只中の部門に異動することができました。
リチウム電池材料部という事業部門の中で、知財戦略機能を立ち上げるための知財担当初期メンバーとして移りました。
知財の実務ももちろん行うのですが、まさに研究開発の現場で、技術をどう生み出して事業はどう作っていこうか、という企画段階から一緒にやっていくスタンスだったので、だいぶん事業の根本に入り込めるようになったかなと思います。
ただそれでも、正直知財の仕事をやっている限りは生み出してもらう発明をどうするかという間接的な仕事が中心で、どうしても自ら直接プロダクトを生む、自ら引っ張ってビジネスを回す、とはならず…。
そこはまだキャリアの悩みとして持ち続けていた部分でもあったので、一念発起して社外でビジネスを立ち上げ、小さくとも自分でビジネスを回す経験を得てしまおう、という方向にシフトしていきました。
――今のビジネスにたどり着く前、他にはどんな選択肢を検討されましたか?
玉利:事業部内の中で事業企画系のところに希望を出してスキルを磨いていく、というのは十分可能性としてあったし、実際上司と相談もしていましたね。それで、移るかという話も後々出てきて、ぶっちゃけすごく悩む時期がありました。
ただ時を同じくして副業を始めていたので、どっちを取るかで天秤にかけた部分があります。
――天秤にかけた結果、なにが決め手になったのですか?
玉利:その話が出たのは、知財の仕事を7年程やった頃でした。大きい企業でジョブローテーションしていくとしたら一つ一つの過程でそれくらいの時間はかかるんだな、とも気付きました。このスピード感で、自分が思い描いたビジネスの当事者として知財を扱える人材にはいつ到達できるのだろう、と焦燥感にも駆られたんですよね。
一方で、知財みたいな専門的な仕事が絡む場合には、長い時間を掛けて経験を積み上げる必要性も分かります。このジレンマを何とか超えたいなと。
そこで、全てが手づくりの副業側でサイズは小っちゃくても良いからスピード感を持ってビジネスの全体像を回しつつ、本業では焦らず知財の専門軸を高めながら大きな事業に関わっていこうと思い、そちらの道を選びました。
複業している今の悩み
――では複業をされている現在は、どんな悩みをお持ちでしょう。
玉利:やっぱり月並みですけども、リソース配分をしっかりやりながらセルフコントロールをして両方の仕事をこなしていく、という点は今もなお苦労しながらやっている部分ではありますね。
あとは知財という側面で見ると、機密情報をかなり取り扱う仕事なので、副業側と本業側の仕事がバッティングしないようにする点にも気を遣いながらやっています。
特に大きい会社だとその辺が厳しかったりするので、副業側の事業ではどこの会社でも共通する普遍的な題材を取り扱った教材を中心に作成していました。
今は出光を退職してスタートアップのほうに現場を移していて、複業としてはより柔軟でチャレンジングなスタイルが築けてきているところです。
玉利氏はどうやって「選んで」きたのか
――キャリアを考えたり仕事をしたりする中で、いくつかの選択肢から道を選ぶ場面があったかと思います。その際は、どういう考えで道を選択されましたか?
玉利:人によって価値観の重さをどこに置くか、はあると思いますが、私は自身が楽しいと思って力を発揮できるような仕事をしていきたいと思っています。
なので、自分自身がどちらの道筋にワクワクするのか、賭けてみたいのかをベースに考えています。そのなかで、少しでも多く社会的に貢献できるフィールドはどこにあるのかを追い求めてきた気がします。
一方で、そうは言っても私にも守るべき家族がいますので、挑戦に失敗したしたとしても妻や子供が路頭に迷うことだけは避けられるようにしておきたいです。そういったリスクヘッジも込めての複業ですね。
ですから「複業」というスタイルにはこだわっていて、2本の軸を持つということ自体が精神的に安定しますし、なにより自分がアグレッシブに挑戦できる環境を作れて、結果、チャレンジングな自分であれると思っているので、複業という状況をいち早く築けたのは大きいと感じています。
知財の楽校をはじめたきっかけ
――ここからは、知財の楽校をはじめたきっかけなどについて、詳しく質問したいと思います。まずは、知財の楽校が提供しているサービスについて紹介していただけませんか?
玉利:知財の楽校では、知財研修用の動画教材の販売をはじめとした、知財教育に関する教材・コンテンツを主に提供しています。
知財教育の中でも、知財を職務として志している初学者よりかは、知財を生み出している技術者や事業担当者をターゲットにしています。サンプル動画もあるので、ぜひこちらの動画↓やYouTubeをご覧ください!
――どれもすっごく分かりやすい説明ですよね!このようなサービスを提供するビジネスをしよう、と考えたきっかけなどはありますか?
玉利:ターニングポイントとしてはやはり、事業部門に移動して知財の仕事をし始めたことがあります。
自分の専門性が高くて高品質な間接業務ができる状態になっていたとしても、発明を生み出すのはあくまで開発現場です。知財というルールも先読みした上で研究開発をしたほうが素材の価値が圧倒的に引き上がりますし、それがベースにあるからこそ、後工程の知財の実務もより大きい成果を出していける、ということを開発の現場で知財の仕事をするとなった時に強く実感しました。
ですが「知財はやっぱり小難しくてイメージしにくい」「分かりにくい」と思っている開発メンバーはすごく多くて、全然対話になっていない部分もよく見受けられます。
そこで「双方のイメージを合わせて対話ができるようになるための、共通言語的な知識の普及と共有がめちゃくちゃ大切だよな」と思った時に、私が元々得意としていた「図解などを使って分かりやすく説明するスキル」とすごく親和性があると思いました。
また、この課題は自身の所属先で認識したものではありますが、よくよく考えてみると、どの研究開発現場でも全く同じ課題があるはずですよね。
しかし知財という機密性の高い職務の性質上、各会社は孤軍奮闘して教育をやろうとしています。それはやっぱり閉鎖的で非効率だなと思ったときに、業界全土に知財教育の助けとなるものを展開する事業がもっとあって良いんじゃないかと考え、知財の楽校という会社を立ち上げるに至りました。
今後の目標・展望
――知財の楽校の今後、あるいは玉利様ご自身の将来の夢はなんですか?
玉利:2点ありまして、1点目は「ベンチャー・スタートアップの知財」という切り口です。スタートアップの知財人材としてのモデルケースになっていきたいという思いがあります。
今私は、株式会社Polyuseという建設用3Dプリンターに関するディープテックベンチャー・スタートアップで働いていまして。
【株式会社Polyuse 概要】
会社名:株式会社Polyuse
所在地:東京都港区浜松町2-2-15
設立:2019年6月
事業内容:建設用3Dプリンタを中心とした建設業界特化型の技術開発及びサービス提供
公式ホームページ:https://polyuse.xyz/
玉利:ベンチャーやスタートアップは、知財としてもすごく挑戦的で面白い発明が生まれていますし、ビジネスとしても面白そうなことをやっているので、元々ワクワクしたいという性格も相まってすごく気になっていました。
一方で、ベンチャー・スタートアップの知財は人材・知見・インフラも含めて行き届いていない現状です。
まさに先程語った、自分自身のワクワクと社会的意義の高さが揃った世界での仕事だったので、そこに飛び込んで知財の仕事をしたいという想いは出光にいる頃からもフツフツと抱えていました。
――経歴を拝見しますと、転職より先に起業されていますが、これは先ほどおっしゃっていた「リスクヘッジ」が関わってくるのでしょうか。
玉利:そうですね。先程の話にも繋がるんですが、特に家庭を持っている人にとっては、挑戦をするための環境整備って大事だと思います。自分一人の都合だけではなく、家族としてリスクがとれる状態になっていないと、思い切り良く飛び込めません。
例えば、私の場合はベンチャー・スタートアップの世界で働きたいという夢がありましたが、大企業に比べれば会社そのものが短期的に潰れてしまうリスクはあると思いますし、アーリーのステージならば入って早々から福利厚生等も含めて盤石な給与体系を期待することが難しかったりもします。
しかも、知財のような専門職の人材は、ある程度実務経験を積む必要がありますから、まずは大企業や特許事務所で働くのが一般的です。一方で、ベンチャー・スタートアップでは知財活動の全てに一から対応する必要があり、即戦力でないと通用しない実情もあります。経験を積み、元々の収入もそれなりに上がって家族生活が成立しているとなると、リスクヘッジなしで飛び込むことにはどうしても慎重にもなりますよね。
だからこそ、私は先に小さく起業して複業の柱を立てました。Polyuseは社員の生活も含めて相談にのってくれますし、私の家族はワクワク挑戦する姿を応援して背中を押してくれたので、ほんと感謝しかないですね。
念願叶って私は今、自分が惚れたPolyuseというベンチャー企業で働いているので、先陣切って成果を残して「ベンチャー・スタートアップの知財人材」としてのモデルケースになれたらいいなと思っています。
いずれは、同じくベンチャーで働きたい知財人材が飛び込んでいきやすいようなエコシステムを作って、挑戦する人材を支援したいですね。
2つ目の夢は「プラットフォームの立ち上げ」
――では、2点目の夢についても伺いたいと思います。
玉利:知財業界全体がリンクして底力を上げていくようなプラットフォームを立ち上げて、知財人材が事業や研究開発に貢献することを広く実現できるためのインフラ的なサービスを生み出していきたいなと考えています。
いまのところ知財の楽校は個別に取引させていただいたお客様に教材を販売していくという事業を行っていますが、私の構想ではまだ初期の初期の段階にいます。
今後は、知財の楽校が独自に製作したものを個別に販売していくだけではなく、プラットフォームのような仕組みを作って、そこを通して多様な知識が色々な会社に伝播していくようにしていきたいなという夢がありますね。
特にこの業界には、知識や経験値を届けたいと言っているGive思考の手練れの方々がたくさんいらっしゃることを知っているので!
最後に
――今キャリアで悩んでいる人に向けて、メッセージをお願いします!
玉利:私自身もキャリアについては色々と悩んできました。目指すキャリアによって悩みの種も全然違うだろうと思います。
ただ知財の仕事をやってきてみて、知的財産という目に見えない価値を捉えて、それらを文章や図に落とし込むこと、客観的に認識可能な概念を作って権利に仕立て上げていくことを通して得られるスキルは、高い汎用性を持ちながら希少性もあるものだと感じています。
そういった、汎用性のあるスキルも身に付けつつ、知財という職種の専門性も高めていけるので、しっかり経験を積んでいけば、使い方と組み合わせ次第でキャリアの幅はかなり拡げられると思います!
しかも、知財権の出願検討では、会社の無形資産から強みと思われるものを抽出して権利化しようと考えます。
知財担当という仕事のポジションでは、様々な切り口からそのような強みに関する相談がされるので、重要な情報が必然的に集まってきます。
その情報を上手く使えば唯一無二の役割を担えるので、そういったところを前向きに捉えてキャリアステップを踏んでいくと良いのではないかと思っています。
一方で、知財にはイメージが湧きにくく敬遠されやすい性質もやはりあります。そのため、いくら良いスキルやポジショニングがあっても、その良さが生きてこないという業界実態もよく見受けられます。
そのポテンシャルを活かしていくためにも、他の職種の方々との相互理解のための自己発信を知財人材からしていくことが必要だと思います。
僕自身もまだ試行錯誤で走っているところですが、本気でやり始めれば知財人材としての可能性や未来は拓いていけると信じています。皆さんも一緒に頑張って進んでいきましょう!
【今回インタビューした方】
◆玉利泰成氏(株式会社知財の楽校 代表取締役社長/株式会社Polyuse BizDev知財戦略マネージャー)
筑波大学大学院を修了後、2014年4月出光興産株式会社入社。コーポレート系の知的財産部門にて知財実務全般に従事した後、新規事業立ち上げ期のリチウム電池材料部に移り開発現場で知財戦略の立案と推進に携わる。
2021年2月副業で知財教育サービスの個人事業を開業し、同年8月法人化を経て株式会社知財の楽校の代表取締役社長に就任。2022年11月建設テックベンチャーの株式会社PolyuseにBizDev知財戦略マネージャーとしてジョイン。特技は図解、趣味はサウナ。