明細書の紹介(1)構造系の明細書でも図面による説明は必須ではない
特許を取得する際に出願する書類(明細書)の書き方については、法律や規則で定められているルールの範囲内であれば、自由に記載することができます。そのため明細書では、以下のような点について、様々な工夫がなされています。
- より広い権利範囲を取得する
- 技術を分かりやすく説明する
- 出願人の負担を少なくする
今回は、「出願人の負担を少なくする」点で工夫されている明細書を紹介します。
この記事で紹介する明細書
今回紹介する明細書は、缶詰に用いられる全面開口タイプの缶蓋に関する特許出願(公開番号:特開2020-132252)です。
発明の概要
今回紹介する明細書は、以下のA)とB)を特徴とする出願で、この特徴を説明するために図1-図3が記載されています。
A) 第2層(16)と第3層(17)との折り返し部(19)の先端部(20)が、缶蓋(1)を開封することによって第1層(15)に形成された破断端の保護部を成してている。
B) 缶蓋(1)の軸線方向で、第2層(16)と第1層(15)におけるスコア線(4)側の端部との間隔(D1)が、第2層(16)と第1層(15)におけるスコア線(4)とは反対側の端部との間隔(D2)よりも狭い。
図1 缶蓋の正面図
図2 缶蓋を、その中心を通る直線に沿って切断した断面図
図3 缶蓋の外周部の一部を拡大して示す断面図
そしてこの缶蓋は、AB2つの特徴を有することで、缶蓋を開封するときに生じた第1層(15)の破断端のいわゆる保護性を損なうことなく、各折り返し部(18,19)の曲率半径を大きくしたり、重層部(14)の全体の潰し量を小さくしたりすることができます。
そしてその結果、缶蓋(1)の内面に割れや亀裂などの欠損が生じにくくなります。
また、先端部(20)と第1層(15)の破断端とが接近することで、この破断端が先端部(20)によって保護されるため、破断端に指などが接触しにくくなります。
【本明細書の注目点】図面なしで説明される構造系の特許
さて本願の発明は、開封したときに缶蓋の内面に割れや亀裂などの欠損が生じにくく、かつ破断端に指などが接触しにくくなるという効果を有する発明です。
そのため一般的な明細書では、缶蓋を開封したときに各折り返し部(18,19)や重層部(14)が変形する状態や、破断端が先端部(20)によって保護されている状態を、図面に基づいて説明します。
しかし本願では、これらの状態を図面を用いることなく、明細書中の文章のみで説明しています。その一部を以下に引用します。
【0021】
ついで、上記構成の缶蓋1の作用について説明する。図示しない缶容器を開封するために、タブ6の指掛け部8に指を掛けてタブ6を引き起こすと、開口片5のうち、スコア線4よりも内側の部分に押し下げ部9が押し当てられる。そして、押し下げ部9を支点とし、リベット部10を作用点とした第2種のテコ作用によってリベット部10の近傍に形成された補助スコア線13に破断が生じる。タブ6を更に引き起こすと、リベット部10を支点とし、押し下げ部9を作用点とした第1種のテコ作用が生じ、押し下げ部9の近傍のスコア線4に破断が生じると共に、開口片5の一部が押し下げ部9によって缶容器の内側に折り曲げられる。…
この段落【0021】では、1文の中で、行う動作と、その動作によって生じる現象とが対になった形で説明されています。
そして、このように説明することで、図面を用いずに缶蓋の開く状態を説明することを可能にしています。
図面を用いずに特許技術を説明できれば、出願人から提示してもらう図面を減らせ、出願人の負担を減らすことに繋がります。
この明細書がスゴイ(明細書の紹介) シリーズ
- 図面なしで説明する構造系明細書
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。