なぜ「最強」と言われる?任天堂法務部の実績を追う

任天堂は、京都に本社を有する世界でも有数のゲーム機器、ゲームソフトメーカーです。もともとは花札の製造からはじまった会社ですが、現在、約1兆7千万円もの売上規模(2022年3月期)を誇る大企業に成長しています。

これまでの数々のゲーム関連裁判に絡み、「最強」と言われる任天堂法務部ですが、その強さの秘訣はどこにあるのでしょうか。

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怒らせると怖い?!任天堂法務部

任天堂において「法務部」というのは実際には存在しないようですが、ここでは法務を扱う部門、担当者を指して便宜的に「法務部」といいます。なお、弁理士のデータベース情報からすると、「知的財産部」は確実に存在するようです。

任天堂法務部はこれまで多くのゲーム訴訟を扱っていることが知られており、非常に高い確立で勝ちを得ています

また任天堂の特徴として、日本国内での裁判のみでなく、外国での裁判も多くなっていますが、外国での裁判でも臆することなく堂々と臨んでいます。その戦略、戦いぶりは間違いなく世界レベルのもののはずです。

外国の裁判でも負けていない点が、任天堂法務部は最強、という印象を大きくしていることは間違いないでしょう。

任天堂の訴訟 主な事例まとめ

これまでに任天堂が勝訴した、主な事件を紹介します。

ドンキーコング裁判

ドンキーコング裁判は、アメリカの映画会社ユニバーサル・シティ・スタジオ(以下、ユニバーサル社)が、任天堂のゲーム「ドンキーコング」がユニバーサル社の権利を侵害しているとして任天堂を提訴した事件です。任天堂は訴えられた側(被告)ですが、見事に勝訴しています。

裁判では、任天堂側がこちらの点を立証しました。

  • ユニバーサル社のキングコングは著作権の保護期間が切れ権利が存在しないこと
  • 逆にユニバーサル社のキングコングが任天堂のドンキーコングの権利を侵害していること

結果、ユニバーサル社の名誉棄損罪が成立し、ユニバーサル社が逆に任天堂に多額の賠償金を支払うことに!この事件から任天堂法務部最強伝説が始まったとも言えます。

ちなみに任天堂の弁護団に「ジョン・カービィ」という名前の弁護士がおり、後の「星のカービィ」というゲームの名前の由来となったことも有名な話です。

ティアリングサーガ裁判

この事件は、エンターブレインのゲーム「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」が、任天堂のゲーム「ファイアーエムブレム」に酷似するとして、著作権法及び不正競争防止法違反であるとして任天堂がエンターブレイン・開発元のティルナローグを相手に訴訟を起こした事件です。

最終的には、エンターブレイン側が任天堂に対して訴訟費用などを含めた金銭を支払うことで和解が成立しました。

ニンテンドーDSマジコン裁判

この事件は、いわゆるマジコン(正式名称:マジックコンピュータ)の製造販売業者に対し任天堂が提訴した事件です。

マジコンを簡単にいうと、ゲームソフトを不正にコピーして遊べるようにする機械です。

任天堂は2008年にまずマジコン業者を提訴し、その結果、マジコンの違法性が認められて日本国内でのマジコン製造が禁止されることとなりました。

さらに、DS用ソフトを開発したメーカーと共にマジコン業者への輸入販売の差し止めを請求する裁判を提起。

2013年7月にはマジコン業者に対し、マジコンの輸入販売差し止めと賠償金約9000万の支払いを命じる判決が出されています。

3DS裸眼立体視特許裁判

この事件は、元ソニー社員のトミタ・テクノロジーズの富田誠次郎氏が、「ニンテンドー3DSの裸眼立体視の技術は自身の特許を侵害している」として任天堂に対して侵害の訴えを提起した事件です。

問題となった特許は、3Dメガネ等を必要とせずに立体的な映像を見ることのできる、という技術に関するものでした。

第1審裁判所は、任天堂に対し賠償金29億円の支払いを命じましたが、任天堂側は控訴し、米連邦巡回控訴裁判所が一審判決を破棄し差し戻し審を命じました。

その後、最終的には、特許侵害は無かったとする判断が下り、任天堂側が逆転勝訴しています。

マリカー裁判

この事件は、公道カートの利用者に対して任天堂キャラクター・マリオなどのコスチュームを貸し出すなどして営業していた企業「マリカー」とその代表取締役に対し、著作権法及び不正競争防止法違反であるとして任天堂が訴えを提起した事件です。

なお「マリカー」はその後社名を「MARIモビリティ開発」に変更しています。

第一審の東京地方裁判所は、任天堂の訴えを一部認め、MARIモビリティ開発に対して賠償金の支払いと営業の差し止めを命じる判決を下しました。

これを不服としたMARIモビリティ開発は知財高裁に控訴していましたが、任天堂も賠償金額を5000万円に増額して控訴しました。

第二審の知的財産高等裁判所は、任天堂側の主張をほぼ全面的に認め、MARIモビリティ開発に対して5000万円の賠償金の支払いを命じました。

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ユリ・ゲラー裁判

この事件は、当時超能力者として有名であったユリ・ゲラー氏が、任天堂のポケモン(正式名称:ポケットモンスター)のキャラクター「ユンゲラー」は自分のイメージを盗用するものだとして、任天堂に対して賠償金の支払いを要求する訴訟を提起した事件です。

この事件では最終的に、ポケモンのキャラクターの「ユンゲラー」は当時、主に日本国内でしか使用されていないとして、裁判地のアメリカにおいては侵害が成立しないと認定されました。

結果、訴訟が取り下げ又は無効となりました。

コロプラ裁判

直近の大きな事件です。任天堂が取得していた5件の特許の技術について、アプリゲームメーカのコロプラが販売する「白猫プロジェクト」が同様の技術を実装しており任天堂の特許を侵害するとして、任天堂がコロプラに対し約44億円の賠償金及び「白猫プロジェクト」の販売の差し止めを請求した事件です。

その後、侵害するとされる特許は1件追加され計6件となり、賠償額も損害遅延金を含めて約96億円まで増額されました。

最終的には、コロプラが任天堂に対して約33億円の金銭を支払うことで和解が成立しました。

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コロプラ裁判の裁判資料を閲覧して感じたこと

コロプラ裁判では和解に至ったため判決文は出ていません。しかし、裁判資料は閲覧することが可能です。

裁判資料は、大容量のパイプファイルで20冊ほどにもなっていました。提起された訴訟は6つですが、1つの事件を追うだけでもほぼ1日がかりです。

この裁判資料を閲覧して感じたことは、ずばり一言で「任天堂は用意周到である」です。

たとえば相手方を訴えるにあたり、確実に侵害が成立するよう事前に特許の権利範囲の訂正を行っています。おそらく、相手方製品を緻密に分析し、言い逃れができないよう、かなり検討を重ねたものと思われます。また裁判の途中で訴えを追加するなどし、相手方の不安心理を増大させるような戦略も見てとれます。

さらに請求する損害賠償額は、やみくもに高額の損害賠償を請求するのではなく、相手方の売上規模・利益などを考慮して、支払うことが可能であるきわどいところを狙っている印象です。

「逃げ得は決して許すまじ」という任天堂の強い意志が裁判資料からひしひしと感じられました。

まとめ

任天堂が争った数々の事件を見てみると、任天堂は自社の知的財産権の保護において決して妥協しない企業であることが分かります。

知的財産権を適切に取得し、知的財産権を活用して自社の利益を最大化していくという、まさに知的財産権の機能・役割を十二分に発揮させている模範的な企業と言えます。

任天堂の知財戦略はどの企業にとっても非常に参考になるでしょう。今後も注目です。

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