産業翻訳(実務翻訳)の仕事内容について解説!
みなさんは「産業翻訳」という言葉を聞いて、どのようなイメージをされるでしょうか。
翻訳の仕事内容は何となくイメージできても、産業翻訳はどんな仕事をするのか?どのようなスキルが求められるのか?など気になる点は多いと思います。
そこで本記事では産業翻訳の概要や翻訳分野、求められるスキル、年収などを説明していきます。
産業翻訳(実務翻訳)とは?
産業翻訳とは、企業や官公庁等で発生するビジネス文書の翻訳を意味します。
翻訳市場は「産業翻訳」「出版翻訳」「映像翻訳」の大きく3種類に分けられます。その中でも産業翻訳は市場の約9割を占めているのです。
産業翻訳は特許、IT、金融、法律など取り扱い分野が幅広く、それぞれの分野に応じた翻訳ニーズが存在するため、すたれることのない仕事といえるでしょう。
なお「出版翻訳」は、海外の出版物を日本で出版するために行う翻訳をいいます。また「映像翻訳」は、海外のテレビや映画などの音声・文字を日本語に翻訳する仕事です。
産業翻訳にはどんな分野がある?
ここからは、産業翻訳者が扱う産業翻訳の分野を8つご紹介します。
特許翻訳
【翻訳する文書】
- 出願書類
- 拒絶理由通知書
- 意見書・手続補正書
- 優先権証明書
- 各種公報 など
【発注元のクライアント】
- 一般企業
- 官公庁
- 法律事務所
- 特許事務所 など
特許翻訳とは簡単に言うと、特許を含む知的財産に関するあらゆる文書の翻訳を指します。
特許翻訳は語学力だけでなく、各種技術に関する理系的な知識や特許法などの法律的な知識が必要です。
また、日本から海外への国際出願件数が伸びているため、和訳よりも英訳のニーズが高いという特徴があります。
法律翻訳・契約書翻訳
【翻訳する文書】
- 法律や契約書
- 登記関連文書
- 社内規定
- 訴訟関連文書
- 内部統制に関する文書
- 約款 など
【発注元のクライアント】
- 一般企業
- 官公庁
- 法律事務所
- 特許事務所
- 会計事務所 など
法律・契約・訴訟に関連する文書を訳すのが法律翻訳・契約書翻訳の仕事です。
特許翻訳と同様、法律的な専門知識が求められます。また、景気の影響を受けにくく需要が安定しているという特徴があります。
医療翻訳・医薬翻訳
【翻訳する文書】
- CMC関連の各種文書
- CTD
- 学術論文
- マニュアル
- 医療機器関連文書 など
【発注元のクライアント】
- 医薬品企業
- 医療機器メーカー など
医療翻訳・医薬翻訳は、医学・薬学に関する文書の翻訳を指します。
人命に関わる内容の文書が多いことから、医療・医薬に関する高度な専門性が必要です。
医薬翻訳も景気の影響を受けにくく、需要が安定しているという特徴があります。
IT翻訳
【翻訳する文書】
- 製品の取扱説明書
- 技術資料
- 企業のウェブサイト
- プレスリリース など
【発注元のクライアント】
- 国内外のIT企業
- ITに関連したサービスなどを提供する企業 など
IT翻訳では、外資系や国内のIT企業で発生する文書を翻訳します。
IT翻訳で必要なのは基礎的なITの知識です。またIT翻訳のほとんどが翻訳支援ツールを使用する案件であるため、ツールを使いこなせるスキルも必要といえます。
なおIT翻訳では、低コストかつ短納期になりやすいという特徴もあります。
技術翻訳・工業翻訳
【翻訳する文書】
- 製品カタログ
- 取扱説明書
- マニュアル
- 技術論文
- 動画コンテンツ など
【発注元のクライアント】
- 機械メーカー
- インフラ企業
- 政府機関 など
技術翻訳・工業翻訳では、自動車、精密機械、情報・通信、半導体、電機・電子などの幅広い技術分野の文書を翻訳します。
技術翻訳・工業翻訳では、それぞれの技術分野の基礎知識が必要です。また、翻訳支援ツールや機械翻訳を利用した案件が多くなりつつあるという傾向があるため、各種ツールを使いこなせるスキルも必要といえるでしょう。
なお近年では、和訳よりも英訳のニーズが高まっています。
金融翻訳
【翻訳する文書】
- 有価証券報告書
- 財務諸表
- 目論見書
- 投資家向けの資料 など
【発注元のクライアント】
- 銀行
- 保険会社
- 証券会社
- 資産運用会社 など
金融翻訳とは、金融・証券・保険に関する文書の翻訳を指します。
金融翻訳で必要となる知識は少し独特です。
まずは基本となる、金融、証券、保険、会計などに関する幅広い知識が必要です。そして為替レートは各国の経済情勢によって大きく変わるため、最新の為替レートと経済情勢を把握したうえでの翻訳が求められます。
ほとんどの案件が短納期での依頼であり、マーケットレポートの場合は即時納品を求められる場合が多いという点も特徴的です。
マーケティング翻訳
【翻訳する文書】
- SNS
- Webサイト
- パンフレット
- プレスリリース
- 商品パッケージ など
【発注元のクライアント】
- マーケティングやWebに関連する様々な企業
マーケティング翻訳とは、商品の販売やサービスの促進を目的とした企業のウェブサイトやカタログ、パンフレットなどに関する文書の翻訳のことです。
例えばWebサイトであれば、Googleの検索結果で上位に表示させること(SEO)を意識した翻訳技術が必要です。
マーケティング翻訳ならではの特徴として、表現力の高さが求められる点があります。これはた商品やサービスを訴求するための資料を扱う場合が多いためです。
ゲーム翻訳
【翻訳する文書】
- ゲーム画面に表示される文字やセリフ
- 取扱説明書
- 技術文書 など
【発注元のクライアント】
- ゲーム会社
ゲーム翻訳では、ゲームプレイ中に表示される文字やセリフなどを翻訳します。
なお一口にゲームと言えども、RPGやアクションゲームといった様々な種類があるため、各ゲームの世界観に沿った翻訳が必要です。
産業翻訳で求められるスキル
ここからは、産業翻訳者として求められるスキルを4つ紹介していきます。
- 語学力
- 分野に関する専門知識
- 調査スキル
- ITスキル
語学力
産業翻訳では、高い語学力が求められます。特に英語力は最も重要であり、産業翻訳の約8割は日本語・英語間の翻訳といわれています。
求められる英語力に明確な基準はありませんが、一般的にはTOEIC900点以上、英検1級レベルが目安となるでしょう。
しかしTOEICや英検の学習のみに集中する必要はなく、英字新聞や専門分野に関する書籍に日常的に触れることで、実践的な語学力を身に着けることができます。
また、日本語力も疎かにはできません。英日翻訳では専門性の高い英文を正確に読み解き、文意にあった適切な訳をしなければならないからです。
分野に関する専門知識
産業翻訳者として活動していく上では、高い語学力を持っているだけでは不十分です。
というのも産業翻訳の各分野は専門性が高く、翻訳分野に関する専門知識がなければ正確な翻訳が困難だからです。
そのため翻訳分野の実務経験があるのであれば、その経験を活かすと良いでしょう。またそのような実務経験が無いのであれば、専門分野の基本書や資格勉強にて体系的に学ぶことがおすすめです。
調査スキル
産業翻訳の作業の中で約8割は調査であり、翻訳文書を完成させるための情報を的確に調べることが必要です。
翻訳に必要な情報にいち早くたどり着けるように、辞書や書籍、ウェブページなどの作業環境を整えておくとなお良いでしょう。
ITスキル
IT化が進んだ現代において、翻訳作業やクライアントとのやり取りはオンラインで完結するのが基本です。
そのためワード・エクセル・PDFといった基本ソフトや翻訳支援ツール、Eメールなどのコミュニケーションツールを使いこなすスキルを身につける必要があります。
産業翻訳の年収は?
産業翻訳者として活動していくにあたり、収入事情が気になる方は少なくないと思います。
ここからは、産業翻訳の平均年収について説明します。
産業翻訳の平均年収
産業翻訳の平均年収は400万円~500万円程度といわれています。もちろん専業・副業や経験年数の違いがあるため、全ての産業翻訳者がこの平均年収に当てはまる訳ではありません。
ちなみに出版翻訳の平均年収は500万円~800万円程度、映像翻訳の平均年収は500万円~600万円程度と言われています。
平均年収だけで比べると、出版翻訳や映像翻訳の方が稼げるイメージをもちます。
しかし、産業翻訳が翻訳市場全体の約9割を占めていることをふまえますと、産業翻訳がもっとも割り良く稼げる分野といえるでしょう。
フリーランス翻訳者と社内翻訳者の年収の違いは?
フリーランス翻訳者
フリーランス翻訳者の平均年収は300万円~500万円程度といわれており、サラリーマンの平均年収とそれほど変わりません。
一般的に翻訳の報酬は、翻訳の文字単価×文字数で決定します。
この点、医療・薬学や金融の分野は、その専門性の高さから高単価になる傾向があるため、他の分野を扱う翻訳者よりも有利といえます。
社内翻訳者
正社員の社内翻訳者の平均年収は400万円~600万円程度で、一般的なサラリーマンよりも平均年収が高い傾向にあります。
また他の職種の正社員と同様、毎月の給料やボーナスが支払われるため、フリーランス翻訳者に比べて安定的な収益が得られるでしょう。
産業翻訳家(実務翻訳家)になるには?
ここでは、産業翻訳者としての働き方と翻訳会社に登録するときの関門となる「トライアル」について説明していきます。
まずは産業翻訳家の2つの働き方を確認します。
【働き方1】フリーランス翻訳者
フリーランス翻訳者は、企業などの組織に属さずに個人事業主として活動する翻訳者です。フリーランス翻訳者のメリット、デメリットは以下の通り。
【メリット】
- 場所を選ばず仕事ができる
- 時間の融通が利きやすい
- 収入が青天井
【デメリット】
- 収入が不安定
- 生活リズムが乱れがち
- 孤独になりやすい
1つずつ見ていきましょう。
場所を選ばず仕事ができる
パソコンとネット環境さえ整っていれば、自宅やバーチャルオフィスなど場所にとらわれず自由に働くことができます。そのため、在宅勤務を必要とする人には特におすすめの働き方です。
時間の融通が利きやすい
「1日3時間」など労働時間を自由に決めることができるので、時間に融通が利きやすいというメリットもあります。
収入が青天井
自分の頑張り次第でいくらでも収入をあげられるのが、フリーランス翻訳者のメリットといえるでしょう。中には年収1,000万円を越える人もいます。
収入が不安定
フリーランス翻訳者の最大のデメリットと言えます。特に翻訳経験が少ないうちは低単価の仕事が多くなり、収益が上げづらいです。
また、ある程度経験を積んだとしても、安定的に翻訳依頼をもらえる保証がないため、いきなり収入がゼロになる可能性もあり得ます。
生活リズムが乱れがち
フリーランス翻訳者は労働時間を自分の裁量で自由に決められるため、しっかりとスケジュールを立てないと生活リズムが崩れてしまいます。
孤独になりやすい
会社勤めのサラリーマンとは異なり、上司や同僚と話す機会がありません。そのため孤独になりやすいというデメリットがあります。
【働き方2】社内翻訳者
社内翻訳者は、一般企業や翻訳会社などの組織に属して社内で活動する翻訳者です。
社内翻訳者のメリットは以下の3つです。
- 収入が安定している
- ある程度は規則正しい生活ができる
- 定期的に人とコミュニケーションをとれる
収入が安定している
一般のサラリーマンと同様、月々の給料やボーナスが支払われるため安定的な収益が得られます。また、福利厚生を受けられるという点もメリットといえます。
ある程度は規則正しい生活ができる
社内翻訳者は「9時~18時」など勤務時間が決められている場合が多いので、仕事とプライベートの切り替えがしやすいといえるでしょう。
そのためフリーランス翻訳者と異なり、生活リズムがある程度安定します。
定期的に人とコミュニケーションをとれる
企業などの組織に属していれば、当然上司や同僚などの人と定期的にコミュニケーションをとることができます。
そのため、フリーランス翻訳者が陥りやすい孤独感が少ないです。
産業翻訳家への第一関門「トライアル」とは?
「トライアル」とは簡単に言うのであれば、翻訳実技試験です。
フリーランス翻訳者が翻訳会社から仕事の依頼を受けるためには、まずこのトライアルを突破して産業翻訳者として十分なスキルを持っていることをアピールしなければなりません。
トライアルの大まかな流れは以下のとおりです。
- 応募者が翻訳会社に応募書類を提出する。
- 翻訳会社から課題が配布される。
- 応募者が課題を翻訳し翻訳会社に提出する。
- 翻訳会社から合否結果が通知される。
ちなみに翻訳の課題は各翻訳会社が独自に作成するため、難易度にもばらつきがあります。
トライアルに合格した場合、翻訳会社に登録することで翻訳の案件を受注できるようになります。
ただし翻訳会社に登録できたとしても、翻訳の案件がすぐにもらえるとは限りません。経験や翻訳の取り扱い分野などを踏まえた上で翻訳者が選ばれるからです。
産業翻訳は機械翻訳に仕事を奪われる?
これから産業翻訳者として活動される方にとって、機械翻訳の動向は見逃せないでしょう。
ここでは、機械翻訳の概要と機械翻訳に産業翻訳の仕事が奪われるかについて、説明していきます。
結論を先に申しておきますと、機械翻訳ではまだまだ力不足です。
そもそも機械翻訳(MT)とは?
機械翻訳とは、その名の通り人間が介さずに機械がおこなう翻訳のことをいいます。
この機械翻訳の方法は「ルールベース翻訳(RBMT)」と「統計翻訳(SMT)」、「ニューラル翻訳(NMT)」の大きく3種類に分類されます。
ルールベース翻訳
ルールベース翻訳は、あらかじめ登録されている文法ルールに基づいて入力された文を分析し、訳文を出力する翻訳を行う方法です。上記3種類の中で最も古くから存在する翻訳手法となります。
統計翻訳
統計翻訳は、大量に蓄積された対訳データに基づいて、統計的なモデルを学習させることで訳文を出力させる翻訳方法です。
ルールベース翻訳に比べて高品質な翻訳ができる点に特徴があります。
ニューラル翻訳
ニューラル翻訳は、脳内の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」を利用した翻訳方法です。
ルールベース翻訳や統計翻訳に比べて、より自然なニュアンスの訳文が再現でき、翻訳のクオリティが飛躍的に高まりました。現在では機械翻訳の主流となっています。
まだまだ機械翻訳では力不足
たしかにニューラル翻訳の登場により、機械翻訳の精度は向上しました。しかし誤訳や訳文が反映されない「訳抜け」が未だに発生しているのが現状です。
そのため、機械翻訳だけでは翻訳レベルは不十分であり、人による翻訳や機械翻訳後の人によるチェック(ポストエディット)が必要といえるでしょう。
まとめ
本記事では、産業翻訳の概要や翻訳分野、求められるスキル、年収などをご紹介しました。
産業翻訳は多岐にわたる分野のビジネス文書をあつかうので、分野の選択に悩むかもしれません。
その場合は自分の過去の実務経験に近い分野や、興味・関心が持てる分野から取り組んでみるとよいでしょう。
また、機械翻訳の影響も気になるところではあります。しかし未だに人の力が必要であり、機械翻訳だけでプロの翻訳者レベルの翻訳が実現する時代はまだまだ先かもしれません。
これから翻訳家として活動することを検討されている方は、この記事を読み返して頂き今後のキャリアに活かしてください。
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知財業界歴10年。 都内大手特許事務所勤務を経て、現在は一部上場企業の知財職に従事。 知財がより身近に感じる社会の実現に貢献すべく、知財系Webライターとしても活動中。