知財業界への転職は難しい?
知的財産の重要性はさらに増しており、知財業界への関心もますます高まっているように思われます。
ここでは、知財業界における転職をテーマに、実際のところを紹介したいと思います。
著者自身も企業から特許事務所に転職した経歴があり、また、特許事務所から企業知財部に転職した元同僚と交流を図る機会もあります。さらに、現在の職場(特許事務所)では採用・人事にも携わっています。
転職を考える方の参考になれば幸いです。
転職は盛ん?
知財業界への転職、知財業界内における転職は一般的なのでしょうか。長年この業界で働いている筆者の体感ですが、知財業界において、転職は比較的多い印象です。
まず、転職先としては主に2つが考えられます。
- 特許事務所
- 企業知財部
特に有資格者(弁理士)の場合、独立開業も含めて、転職するというケースは少なくありません。
余談ですが、海外ではその傾向はより顕著なように思われます。
頻繁に事務所を移ったり、複数人の弁理士が一度に退職→その後新たな事務所を立ち上げた、といったようなことは日本よりも多く見受けられる印象です。
特許事務所ってどんなところ?
まずは特許事務所について、詳しく説明します。
特許事務所ってどんなところ?どんな雰囲気?というのは気になるところだと思います。
自身も、特許事務所に転職する際は、情報がほとんどなく、全くの未知の世界に足を踏み入れる感覚でどきどきした(怖さすら覚えた(笑))ことを覚えています。
雰囲気は入ってみないと分からない
結論から言えば、「雰囲気は入ってみないと分からない!」です。
一般企業でもそうですが、特許事務所も、創業者や現経営者の思想・ポリシーが良くも悪くも色濃く反映されやすいと言えます。
また、下でも述べますが、一般には転職者が多く、様々な業界から、個性豊かな?癖のある?人材が集まっている傾向にあり、特許事務所ごとに雰囲気は全く異なるように思います。
ただし、HPの情報や採用説明会などを通じて、ある程度社風を推し量ることは可能ですので、積極的に情報収集すると良いでしょう。
知財HRの求人情報にはインタビューを同時掲載中!
知財HRでは、特許事務所に転職する前の不安を少しでも減らせるよう、各事務所のインタビューを掲載中。転職先候補がどんな事務所か、だけでなく、世の中にはどんな色の事務所があるのか、も知ることができます。
企業からの転職が多い
特許事務所では、企業からの転職者は多いと言えます。ちなみに、著者の特許事務所でも9割以上が中途採用です。
理由としては、特許事務所側が、即戦力や、すでに社会経験があるという観点で教育コストがかからない人材を求める傾向にあることが主として考えられます。
個人プレイヤーの集団
特許事務所の基幹業務は、出願書類の作成~特許庁への出願手続き、となります。
出願書類の作成に関して言えば、ある程度は担当者1人で遂行・完了できますので、その点で「個人プレイヤーが集まっているのが特許事務所」といった雰囲気になります。
著者も、特許事務所に転職してからは、「出勤したけど誰とも一言も話さず1日が終わった」といったことは実際よくありました。
常に期限に追われる
どのような業務にも期限はありますが、特許事務所の業務においては、「法定期限」という絶対期限があります。法的に定められた期限です。
この期限を徒過すると出願が取り下げとなり、その出願を回復させることがほぼほぼ厳しくなって、依頼者に決定的な損害を与えてしまいます。
このため、常に期限に追われるような状況です。
特許事務所に向いている人
どんな人が特許事務所に向いているのか、簡単に触れてみたいと思います。
自分のペースで仕事がしたい人
上記のとおり特許事務所では1人で業務を遂行・完了できる場面も多く、見方を変えれば、自分のペースで業務を進められるとも言えます。
自己コントロールができる人
自分のペースで業務が進められることはメリットである半面、成果は自分次第、という厳しい面もあります。その点では、自己コントロールがしっかり出来る人が向いています。
ガシガシ稼ぎたい人
特許事務所によりますが、成果主義、売り上げ連動を採用する特許事務所が多いように思われます。
頑張れば頑張っただけ年収に反映されますので、たくさんこなしてどんどん稼ぎたい!という人には向いているかもしれません。
企業知財部の業務は?
次に、企業知財部の業務について紹介します。
一般的な企業知財部の役割は、その企業の知的財産を適切に保護し、事業継続・事業発展に活用する、ということです。
知的財産をどのように保護し活用していくか、という上流側の思考が求められる点において、出願書類の作成が基幹業務となる特許事務所とは、基本的に大きく異なります。
技術部門から発明を吸い上げる
知的財産は、無形資産であり、具現化されなければ、発明者・創作者の頭の中に眠ったままの状態で終わってしまいます。
企業知財部の重要な業務の1つとしては、「発明発掘」があります。
より具体的には、発明者・創作者が発明等を提案できるような仕組みを構築・運用していくこと、です。
そして、出された発明等について、権利取得の価値があるかどうかを判定し、価値がある場合、権利化のための出願を行っていくことになります。
この権利化のための出願手続きは、企業内弁理士が行う場合もあれば、特許事務所にアウトソーシングする場合もあります。
特許事務所に業務を発注する
権利化のための出願手続きを外部の特許事務所にアウトソーシングする場合には、適切な特許事務所を選定し、必要資料を用意して発注します。
適宜、自社の技術部門(発明者等)と特許事務所との面談を設定します。
調査、交渉、係争など
企業知財部では、その他、競合他社の知的財産権に関して調査、鑑定を行ったり、競合他社との交渉(ライセンス交渉)や係争(無効審判、侵害訴訟、など)もハンドリングします。
必要に応じて、外部の専門家(弁護士、弁理士等)と連携します。
企業知財部に向いている人
安定を優先したい人
企業知財部の場合、特許事務所とは異なり、成果主義や売り上げ連動ではなく固定給となるのが通常です。
どのように感じるかは人によると思いますが、不安定な面もある特許事務所と比較して、安定的であるのは魅力でしょう。
また、一般企業の場合、特許事務所と比較すれば福利厚生などもより手厚い場合が多いと思います。
幅広く経験したい人
上述のとおり、特許事務所での主要業務は出願書類の作成になりますが、企業知財部の場合、調査や鑑定、交渉、係争、など、より幅広い業務に関与できる可能性があります。
より幅広い業務にチャレンジしてキャリアアップを図っていきたい、という人に向いています。
マネジメントが得意な人
企業に属する以上、担当する業務は幅広く、社内の関係部門と連携したり、外部の専門家・特許事務所と連携したりする場面が多くあります。マネジメントスキルがやはり必要です。
転職の難易度
さて、では、実際のところ転職の難易度はどれほどのものなのでしょうか。転職は難しいのでしょうか。ここでは、転職のパターンに分けて触れてみたいと思います。
特許事務所→特許事務所
まず、特許事務所勤務の者が別の特許事務所に転職するパターンです。
この場合、著者の経験・感覚では「比較的容易ではあるが、あくまで転職先とのマッチング性による」というのが答えです。
特許事務所の勤務経験があれば、即戦力としての活躍が期待されます。転職者の専門分野・バックグラウンドと特許事務所のニーズが上手くマッチすれば、転職は比較的スムーズに実現すると思います。
企業知財部→企業知財部
この場合も、比較的容易である、というのが著者の感覚です。実際、知り合いの企業弁理士が、別の企業の知財部に転職するケースもたびたび見ています。
企業知財部の経験者であれば企業知財部の役割・職責を理解していると一般的には思われるため、企業としては採用のハードルは下がると思います。
特許事務所→企業知財部
特許事務所勤務の者が企業知財部に転職するパターンですが、この場合、出願書類の作成(内製)などの点で即戦力としての活躍を期待されることが多いように思います。
つまり、出願手続きを含めて全て自社でやってしまおう、という場合の即戦力です。
特許事務所勤務の経験・スキルによっては、転職は比較的容易であると思います。なお、著者の周囲でもこのパターンの転職は比較的多いです。
企業知財部→特許事務所
このパターンの転職は比較的少ないように思われます。
企業知財部で求められるスキルと特許事務所で求められるスキルとは基本的には異なります。なので特許事務所が即戦力としての活躍を期待する場合には、企業知財部の経験というのはさほど重要視されないように思います。
もちろん、知財に関する実務経験があるというのは、未経験者と比較すれば当然有利には働きます。
未経験から知財業界へ転職できる?
未経験から知財業界への転職を考えている方もいるかもしれません。ここでは、その可能性について考えてみたいと思います。
バックグラウンドが重要
未経験から知財業界への転職が可能かどうかですが、結論から言えば、もちろん可能です。
特許事務所の場合
重要なのは、バックグラウンドです。
例えば「発明」とは、特許法上、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度なもの」と定義されます。
特定の技術分野について、知見が豊富であり強みがあれば、その分野において大いに活躍できる可能性があります。
企業知財部の場合
未経験である点は確かに転職において不利であるかもしれません。
しかしながら未経験であっても、バックグラウンドでアピールできる点があったり、企業知財部において求められるマネジメントスキルが高いといったようなアピールポイントがあれば、可能性はあります。
ここでいうマネジメントスキルとは、下記のようなものがあります。
- 社内において発明・アイディアを発掘する仕組みを構築し運用するスキル
- 外部の専門家(弁護士、弁理士等)などのリソースを活用して目的を達成するスキル
- 知的財産そのものを管理していくスキル
当事者意識を強く持って組織全体を動かしていくマインド・スキルがあれば、強いアピールポイントになります。
未経験から転職を成功させるには何をすればいい?
発明(特許)を扱う場合には、最低限、高校レベルの知識で構いませんが、物理・化学・生物・数学等の理系の知識が必要です。ですので、復習しておくことをおすすめします。
また、知的財産法の知識や資格もあったほうが良いです。
- 弁理士
- 知的財産管理技能検定
- ビジネス著作権検定
- AIPE認定知的財産アナリスト
- 知的財産翻訳検定 など
特に弁理士は最高峰の国家資格になります。このような資格の取得や、資格取得のためのテキストを用いて勉強しておくことをおすすめします。
新卒で知財業界に入るには?
マイナビ、リクナビといった大手就職エージェントに登録するのがベターであると思います。
なお特許事務所の場合は、採用コストの関係で、大手エージェントに求人を出しておらず、自社HPのみで求人を出している、というケースも多くあります。
特許事務所に就職したい場合は、自身でインターネットで検索し、希望の特許事務所に直接応募する、というのも有効です。
まとめ
まとめますと、知財業界への転職は必ずしも難しいものではなく、例えば未経験からでも転職のチャンスはあります。
とりわけ特許事務所の場合は、未経験者の中途採用、というパターンがそれなりにあり、専門分野・バックグラウンドがマッチすれば比較的容易に実現します。
知的財産権は、事業展開と密接に関連しており、知的財産権に関する専門知識を有する人材はニーズが高い状況です。将来的にも貴重な人材であることは間違いないでしょう。
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エンジニア出身です。某一部上場企業にて半導体製造装置の設計開発業務に数年携わり、その後、特許業界に転職しました。
知財の実務経験は15年以上です。特許、実用新案、意匠、商標、に加えて、不正競争防止法、著作権法、など幅広く携わっています。
諸外国の実務、外国法にも長けています。