特許事務所で働くのに英語力はいるの?特許事務所職員が徹底解説します!
仕事をするうえで、なにかと必要になるのが英語のスキル。
特許事務所は、主に、特許、意匠または商標などの知的財産権の権利取得をサポートするところですが、特許事務所で働く人にとって「英語力」は必要でしょうか?
特許事務所で英語を使う場面
特許事務所は、技術的な文章の作成を行なう弁理士と、その作った文章を特許庁に提出する事務職員とが在籍しています。
事務職員はさらに、国内事務職員と外国事務職員とに分かれています。ここでは、外国事務職員と弁理士の仕事において、英語力が必要となる場面について紹介します!
外国特許事務の仕事
外国特許事務の仕事で英語を使う場面は、主に、以下の3つが挙げられます。
- 日本から外国への出願代理業務
- 外国から日本への出願代理業務
- 外国の現地代理人とのコミュニケーション
それぞれの仕事について、説明していきます。
1.日本から外国への出願代理業務
日本の出願人が、アメリカやヨーロッパ(EU)等の外国に出願する際の代理手続業務です。翻訳文や優先権証明書等の書類を用意して外国官庁に提出する必要があります。
書類の言語はほとんどが英語で記載されているため、英語の文章を理解しなければなりません。大事な書類であるため、ミスせずに書類を用意しなければなりません。
日本語を英訳する際は、基本的に翻訳会社に外注することが多いですが、翻訳ミスがないかを外国事務の方がチェックするため、「リーディング」「ライティング」のスキルが必要となります。
2.外国から日本への出願代理業務
今度は逆に外国の出願を日本の出願に移行したい場合もあります。
この場合、外国語(英語)で記載された特許明細書等を日本語に翻訳してから日本の特許庁に提出する必要があります。
翻訳自体は、日本の出願から外国へ出願するときと同様に、翻訳会社が行いますが、最終的なチェックは、外国特許事務の方がするため、その際に「リーディング」のスキルが必要となります。
3.外国の現地代理人とのコミュニケーション
- 日本から外国の出願代理および
- 外国から日本の出願代理
をする際は、当該国の現地代理人とメールでやり取りすることになります。
この際に、外国代理人に対して、書類の送付、期限ものの案件のリマインダー通知、ディスカウントの交渉、またはクリスマスを祝う等のコミュニケーションをとらなければならないため、「リーディング」「ライティング」のスキルが必要となります。
メールベースでのコミュニケーション以外にも、交流が発生する場合はもちろん「スピーキング」「リスニング」のスキルが必要になってきます。
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弁理士の仕事
続いて、弁理士が英語力を必要とする場面について説明します。外国特許事務の方と比べて、英語を使う場面は限られていますが、主に、以下の場面で使う必要があります。
外国文献を引例として拒絶理由が来たとき
特許出願後、拒絶理由が通知される際は、引用文献と一緒に送付されることが多いです。引用文献の対象は、日本の文献だけでなく、世界各国の文献が対象となるため、アメリカや中国等の文献が来ることもあります。
したがって、弁理士としては、これらの内容を理解した上で拒絶理由の内容をかみ砕く必要があるため、「リーディング」のスキルが必要となります。
内外の案件で拒絶理由がきたとき
日本から外国へ出願をして拒絶理由が来る際は、ほぼ間違いなく外国文献を引例にして拒絶理由が通知されます。
よって、英語の拒絶理由の内容を理解し、英語の引用文献の内容を理解した上で、現地代理人に補正書、意見書の内容を送付しなければなりません(現地代理人に中間手続きを丸投げすることも可能ですが、高額な手数料が請求されるため、出願人の経済的負担を少しでも軽くするために、補正書等はこちら側で作成することが多いです。)。
したがって、弁理士としては、「リーディング」のスキルが必要となります。(補正書等の英訳は、通常、外国事務の方が行います。)
求められる英語力・重視されるスキルは?
述したように、外国特許事務の方は「リーディング」「ライティング」のスキルが重視され、弁理士は「リーディング」のスキルが重視されます。
ただし今は自動翻訳の技術が発達しているため、ある程度の英語力があるなら、それらのツールを使えば英語で困ることはほとんどないと思われます。
基本的に外国の現地代理人と話す機会はほとんどないため、「スピーキング」のスキルはなくても基本的に問題ありません。(あるとしても、たまに急に電話での営業があるくらいだと思います。)
特許に関する英語の資格はあるの?
知的財産翻訳の中心である特許明細書などの知的財産に関する翻訳能力を客観的に測るための検定試験として、『知的財産翻訳検定』があります。
『知的財産翻訳検定』は、日本で唯一の知的財産翻訳能力認定専門機関である特定非営利活動法人(NPO)日本知的財産翻訳協会(通称“NIPTA”)が2004年12月より実施した知財翻訳試験です。
1級、2級、3級の3つにレベル分けがされています。各級のレベルの目安、内容は下記の通りです。
【1級】
知的財産分野における専門職業翻訳者として推薦できるレベルです。
出題分野
- 知財法務実務
- 電気・電子工学
- 機械工学
- 化学
- バイオテクノロジー
1.知財法務実務については、次の2つが問われます。
・知的財産権利化のプロセスにおいて用いられる文書の翻訳
(例えば中間処理文書、審決、審決に対する訴え、など)
・知的財産権の活用・展開に際して用いられる文書の翻訳
(例えば侵害訴訟関連文書、ライセンス契約書、侵害警告書、など)
2~5については技術理解力、特許明細書翻訳力を問う出題で、完全記述式です。
【2級】
特許明細書翻訳の基本を理解し実務に堪える力があると認められるレベルです。
- 一般的な技術内容(技術分野選択なし)。
- 特許明細書翻訳力を問う出題。
- 完全記述式です。
【3級】
入門者・初心者レベルです。
- 知財英語についての基礎知識の有無を問う出題(技術分野選択なし)。
- 一部記述式、一部マークシートから選択式(選択式については日英混合)。
知的財産翻訳検定に関する詳細は下記の記事で解説しています。
翻訳会社の仕事の違いは?
翻訳会社は、前述したように、外国から日本に出願する際に、特許明細書等を日本語に翻訳してもらうために利用します。
弁理士や外国特許事務の者が翻訳文を作成することは可能ですが、特許明細書の翻訳は、一般的な翻訳とは性質が異なり、特許明細書翻訳のための専門的なスキルや発明の技術的な理解が必要となるため、翻訳を行うのに多大な時間や労力がかかります(特に医薬品関係など)。
したがって、出願代理業務の仕事をする上で、効率化を図るためには、翻訳文は特許事務所等が作成するよりも翻訳会社に外注することが望ましいと思われます。
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まとめ
特許事務所で英語を使う場面を紹介してきましたが、いかがでしたしょうか?特許事務所では、書類のやりとりで英語が頻繁に利用されています。技術的なことはよくわからないが、英語を使う仕事がしたい方は、外国特許事務として働くのもいいのかもしれません。
また、英語を頻繁に使うといっても特別高い英語力が必要というわけではありません。即レスポンスが求められる「スピーキング」のスキルは必要ないですし、AI が行う自動翻訳の精度も年々向上してきてます。
特許事務所で外国特許事務として働くには、ある程度の英語力が必要かもしれませんが、それ以外で働くのならば最低限の英語力があれば特に問題がないと思われます。
「企業の知財部で働くのに英語力が必要か」ということは、下記の記事で詳しく解説しています。
気になる人は併せて確認しておきましょう!
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理系大学院を卒業後、特許事務所にて働きながら社会人大学院に通って法学研究科を卒業。2021年にビジネス著作権検定上級に合格し、現在も特許事務所にて特許権等の権利化業務を行なっています。