文系出身でも特許翻訳はできるのか?必要なスキルは?
特許翻訳で扱う書類である明細書には、特許技術が書かれています。
そのため特許翻訳には技術に対する理解、つまり理系知識が必要となります。
理系知識が必要ということは文系出身者が特許翻訳の仕事をこなすのは難しいのでしょうか?
文系出身者と理系出身者の割合
翻訳の中心は、日本語の文章を英訳すること、または英語の文章を和訳することです。そのため、特許翻訳では文系出身者が理系出身者よりも多いのでは、と考える方もいるかと思います。
しかし、特許翻訳でよく翻訳される特許出願の書類には、特許を取得する技術が記載されているため、理系出身の特許翻訳者も多いです。体感ですが特許翻訳者の出身は、文系と理系が半々ぐらいです。
特許翻訳で翻訳する書類
特許翻訳で翻訳する主な書類は、以下の3つがあります。
- 出願書類
- 拒絶理由通知書・補正書・意見書
- 現地代理人のレター
翻訳に際しては、これらの書類に記載されている内容を理解する必要があります。そのためには技術面、法律面における専門知識が求められます。
今回の記事では、この技術面における専門知識をどのように身につけるか、という点について重点的に説明します。英語力については記事の後半で解説をします。
技術内容の理解という壁
そもそも特許翻訳において、書類に書かれている技術内容を十分に理解することが、なぜ重要なのか確認しておきます。
技術内容を十分に理解できていない状態で翻訳をすることは、誤訳のリスクが高くなり、さらに、弁理士や技術者が読んだときに違和感を覚える翻訳になる可能性も高くなります。
なお先端分野の特許翻訳をする場合には、これらの物理・化学といった理系知識に加えて、関連する論文や専門書の読みこみが必要になります。
要求される技術知識のレベル
特許の出願書類を理解するためには、ベースとなる物理または化学の知識を、高校・高専で学ぶ範囲で身につけておきましょう。
特許の技術分野は大きく機械系、電気系、化学系の3つに分かれます。
機械系、電気系では物理やその周辺分野の知識が要求されます。一方で化学系になりますと化学分野の知識が要求されます。
物理・化学のなかでも、どの基礎知識が要る?
たとえば物理学は力学、電磁気学、熱力学、量子力学などに細分されます。ですから出願分野ごとに「求められる基礎知識」に差があります。
出願分野 | 物理 or 化学 | 必要な知識の例 |
---|---|---|
機械系 | 物理 | 力学(熱力学、流体力学を含む) 機械工学 |
電気系 | 物理 | 論理回路 物理における電磁気学 |
化学系 | 化学 | 化学全般 |
また機械系の場合、掃除用具や傘などの日用品について特許出願することもあります。
日用品では「理系の基礎知識は不要なのではないか」と思われるかもしれません。しかしこれらの日用品の中にも、力学の観点で分析したうえで特許出願されているものもあるため、力学の知識は必要になります。
先端技術の理解
先端技術の特許翻訳をする場合には、この先端技術に関する論文や専門書を読んで理解する必要があります。
例えば最近ではAI(人工知能)などの出願が増えていますから、これらの出願書類を翻訳する際には、当然AIの専門知識も必要となります。
技術知識の習得方法4つ
ここからは、文系翻訳者が技術知識を習得する主な方法を解説します。いずれの方法も長所・短所があるため、学習の際には、これらを使い分ける必要があります。
- 書籍
- インターネット
- 他の出願書類(特許公開公報)
- 講座
1.書籍
書籍で技術知識を習得する場合の注意点として、読んで理解することのできる書籍を選ぶことが挙げられます。もしも研究者が勉強するための書籍を選んでしまうと、その書籍の内容を理解することは非常に困難になるでしょう。
書籍としては、高校や高専の教科書や参考書のほか、秀和システムから出版されている「図解入門 よくわかる」シリーズもおすすめです。
2.インターネット
インターネットによる技術知識習得のメリットはなにより、情報を簡単に入手できることです。その一方で、インターネットの情報は書籍ほど内容が精査されていないことが多いため、内容が正確でない場合もあります。
内容の正確性がある程度担保されているものとしては、会社や社団法人などのホームページがあります。例えば、歯車の技術に関しては、小原歯車工業株式会社のホームページの資料が参考になります。
歯車技術資料|小原歯車工業株式会社 (khkgears.co.jp)
3.他の出願書類
他の出願書類は、公報で確認することができます。この公報は、工業所有権情報・研修館が運営しているJ-PlatPatで閲覧可能です。
公報の長所は、近い技術分野の書類を直接読める点です。
J-PlatPatの「特許・実用新案」の「特許・実用新案検索」で検索項目を発明・考案の名称/タイトルにし、タイトル名を記入すると、このタイトル名を含む公報の一覧が表示されます。
しかし公報には、記載されている技術の基礎知識については書かれていないことも多いため、技術の理解という点では扱いにくいという短所もあります。
4.講座
なかには翻訳講座として、基礎技術の講座を用意している機関もあります。例えば、サン・フレアアカデミーでは、IT・電気・機械になじみのない方を対象とした講座が用意されています。
IT/電気/機械 | サン・フレア アカデミー (sunflare.com)
要求される英語力
特許翻訳では、技術を正確に表現することが重要になります。また、直訳が要求されることも多いです。
その一方で、流暢な文章が要求されることはあまりありません。そのため文法については、高度なレベルが要求されることは少ないです。
筆者は特許事務所で英語の出願書類を読むことが多いのですが、出願書類で使われている英文法の大半は、中学3年~高校2年生で学ぶ範囲のものです。
その一方で、出願書類の中の「特許請求の範囲」という箇所を翻訳する際には、一文が20行程度になることもあり、独特な言い回しに慣れなければいけません。
また名詞・動詞は技術分野特有の単語を使うこともあるため、これらの特有の単語を使いこなす必要があります。
まとめ
特許翻訳では、翻訳する書類の技術を理解したうえで、翻訳することが重要になります。したがって、特許翻訳を仕事にする場合には、この技術を理解するための基礎知識、すなわち、高校から高専レベルでの物理・化学の知識が重要となります。
文系の方は、この点では、理系の方よりも不利ですが、この技術の壁を超えることで、特許翻訳を仕事にすることが可能となるので、頑張ってみてください。
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。