知財業務 生成AIでどこまでできる?

最近、AIを業務に取り入れることで業務の効率化を図ることが、様々な業種において話題になっています。例えば議事録作成や、データ纏めなどの業務については既に実用段階にあり、これらの業務を提供するサービスもすでに行われています。

そして、知財においても生成AIによる業務効率化は話題となっています。

そこで今回は、生成AIで特許業務、商標業務、などの知財業務がどこまでできるのか、Chat GPTやGeminiなどの汎用ツールと、PatentSQUAREなどの専門ツールを使用した場合について説明します。

生成AIと特許  

生成AIにおける特許業務の効率化では、主に次の3つのテーマが話題となっています。

  • 明細書(出願書類)作成
  • 中間処理(補正書・意見書作成)
  • 特許調査

いずれのテーマも、2024年6月時点では研究段階にありますが、特許調査については、専門ツールを使用することで、業務の一部を効率化することが可能となっています。

明細書作成

明細書を作成する際、業務としては、発明の発掘と、出願書類の作成の2つに分かれます。

発明の発掘では、提案された技術のポイントや、従来技術との違いを見つけることで、特許を取得するにあたってのポイントを抽出するのが主な仕事となります。しかし、発明のポイントを抽出する業務については、研究もそれほどなされておらず、実用化の目処は立っておりません

一方で、出願書類の作成については研究も活発に行われています。例えば、該当する技術分野の特許公報等に基づいて生成AIを学習させたうえで、特許請求の範囲と関連する特許文献を生成AIに入力し、発明の詳細な説明を作成させる、という研究が発表されています。

現状では、生成AIに学習させた文献の蓄積がなされていれば、詳細な説明については、生成AIである程度の初稿を作成することも可能です。ChatGPTで発明の詳細な説明を作成した一例を紹介します。

Code Interpreterを使って特許明細書を書いてみる。 #ChatGPT – Qiita より引用

しかし現状では、初稿の修正は大幅なものとなるため、業務で使用することは難しいと思われます。

また生成AIでは、公開する技術と公開しない技術(ノウハウにする技術)を分けたり、出願人の予算に応じて記載量を調節したり、外国の法制度に応じて書類をかき分けるなどの対応については困難です。

そのため、これらの点についてはまだ実用化の目処は立っていないと思われます。

なお生成AIの文章は主語、述語、目的語の漏れが少ないこともあり、外国出願時の翻訳については、大きな問題は生じないと思われます。

中間処理

中間処理をする際、業務としては、拒絶理由通知の妥当性検討と、補正書・意見書の作成の2つに分かれます。

拒絶理由通知の妥当性検討については、新規性や進歩性違反が通知された場合に、本願の特許請求の範囲と引用文献との対比を、生成AIで行うという研究が行われています。一例として、 OpenAI ChatGPT を用いた実験結果を示します。

大規模言語モデルの特許実務における利活用 (jpaa-patent.info)より引用

拒絶理由通知書の文書は、箇条書きや表形式で記載されていない箇所が多く、生成AIが理解しやすい=高い精度でのアウトプットが可能であるとの研究結果が出ています。

その一方で、補正書・意見書の作成については、研究をしている方もいますが、それほど進んでいない様子です。

ChatGPTで作成した意見書の骨子の一例を紹介します。

ChatGPT で特許拒絶理由をらくらく分析して応答案を作成?!|綾木健一郎 (note.com) より引用

現状では、補正者や意見書のポイントとなる点を抽出することはできても、抽出した点をどのように文章として纏めるか、ということは困難であるため、現状では実用に供さないと、筆者は考えています。

特許調査

特許調査としては、先行技術調査やクリアランス調査、無効調査があります。いずれも、人が調査をする場合には、検索式の作成と検索された文献から該当文献を抽出することが主要な業務となります。

調査業務については、生成AIにより、かなり高い精度で該当文献を抽出することが可能となっています。

例えば、パナソニックソリューションテクノロジー株式会社、富士通株式会社、三菱電機株式会社の3社は、共同で、「AIによる高精度な検索結果を抽出する機能」を開発しています。

この機能により、数千件単位の膨大な特許広報の中から、ユーザーが入力したものと意味が近い文章を高精度で検索することが可能となりました。そのため、専門知識を持ち合わせていない方が調査をした場合でも、検索結果の精度を高めることが可能となっています。

この機能はパナソニックの「PatentSQUARE」および富士通の「ATMS PatentSQUARE」に実装されています。

また株式会社amplified aiが提供する「Amplified」は、特許番号、発明提案、技術明細を入力するだけで、世界中の特許を読み込んだAIが類似文献リストを表示することが可能です。そのため、特許調査にかかる時間を大幅に短縮することが可能です。

生成AIと商標

商標に関連する業務のうち、生成AIを用いる業務としては、出願書類の作成と、商標調査があります。いずれの業務についても、すでに使用している特許事務所があり、今後も使用する特許事務所や企業が増えるだろうと考えています。

出願書類作成

商標登録出願をする際にスキルを要求される業務としては、登録商標との類否や、区分の選定があります。

これらの業務のうち、生成AIによる登録商標の類否検索は現時点で使用されています。例えば中国では既に、出願された商標が図形商標である場合にAIによる審査が行われています。

中国:AI技術を使った図形商標のスマート審査を開始 - Linda Liu Group – TMfesta.com

生成AIに登録商標の類否判断をしてもらうことで、商標の類否判断についてなじみの薄い人であっても、商標の類否を判断することが可能となります。

また区分の選定についても、生成AIを使用することで、業務を効率化している特許事務所があることから、今後もこのような業務形態をとる特許事務所や企業も増えると思われます。

商標出願に生成AIを活用、弁理士が思いつかない具体例も出力 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

その一方で、競合他社の動向やクライアントの将来の事業を考慮した商標の区分や商標の選定といった、総合的なバランスを見た決定は人による判断が必要であると思われます。

商標調査

生成AIによる商標調査は、既に専門ツールとして販売されています。

結合商標に完全対応した商標調査AIツール「TM-RoBo」 | 株式会社IP-RoBo – AI Market (ai-market.jp)

とりわけ図形商標については、人の目で見ながら調査をする方法と、生成AIを用いながら調査する方法では、業務の効率が大きく異なるため、図形商標の調査で特に使用されています。

生成AIと著作権

著作権に関する業務の一つとして、対象物が著作権法で保護されるか否かについて判断する業務があります。

著作権法で保護されるか否かという論点は、言い換えれば、対象物が著作物か否かという論点であり、近年では生成AIを用いて作られた物が著作物に該当するか否かが論点となってきています。

また生成AIを用いて物を作った場合、生成AIに入っていた元の著作物を利用しているため、複製権の侵害に該当する可能性もあります。

これらの点については近年日本や外国でも大きな話題となっており、今後の運用が注目されています。

まとめ

生成AIによる業務効率化は知財にも影響が出ており、特に調査(特許、商標共)において急激な業務の変化が生じています。

また、今後の生成AIの発達により、特許における明細書作成や中間処理にも影響が出る可能性があります。

まだ生成AIの影響を受けていない人も、今後の動向に目を向け続ける必要があるでしょう。

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