新卒で知財部員になるためには?
新卒で知財部員になるためには?
みなさんは、新卒で知財部員になるとお聞きし、どのようなイメージをされるでしょうか。
どのような人が向いているのか、必要なスキルはあるのか、入社後のキャリアや年収はどう変化していくのかなど、気になることが少なくないと思います。
今回の記事では、そもそも知財部がなぜ必要かという背景のお話や、新卒で知財部に配属されてからキャリアアップをするまでに体験する仕事内容などをまとめました。
ぜひ読んでいただき、新卒での配属先の候補として、知財部を検討いただけるとうれしいです。
どんな人が就職する?
新人で知財部に配属されるのは、どのような方なのでしょうか。
たとえば、
- 産業財産権に関する法律を学んだ法学部生
- デザインの知識が豊富な美大生
- 研究を通し多くの実験データを取得・考察した理系学生
- 語学力に長けた文学部生
などが配属される可能性があります。
知財部に配属されるために、大学で必ず学ばなければいけないことはありません。
医者(医学部)や薬剤師(薬学部)などと違って、知財部に配属される方は、様々な学部を卒業しています。
特許関係には理系、意匠・商標関係には文系の大学出身の方が就職する傾向はありますが、必修科目がない知財部の新卒の募集には、誰もが応募することができます。
必要なスキルは?
さまざまな学部の方が集まる知財部において、どのようなスキルが必要なのでしょうか。
知財部に求められるスキルとしては、
- 文章力
- 分析力
- 好奇心
- 発想力
- 折衝力
などがあげられます。
各スキルが活かされるのは、具体的に以下のような場面です。
スキル | 活かされる場面 |
---|---|
文章力 | 特許出願の明細書を作成する |
分析力 | 研究データを読み解く |
好奇心 | 新しい分野に関する先行技術を調査する |
発想力 | 研究データから得られる権利範囲を検討する |
折衝力 | 特許の権利化のために拒絶理由通知書の対応を行う |
配属前からこれらのスキルをすべて備えている方はほとんどいらっしゃらないと思います。
入社後、多くの出願書類やデータに触れる中で、少しずつ慣れていけば問題ないでしょう。
あえて気をつけることをあげるとすれば
- 専門用語が多く記載された文章
- 外国語の文章
- 表・グラフ
に拒絶反応が起きてしまう方は、知財部に向いていないかもしれません。
年収は?
企業の規模や業務の種類にもよりますが、知的財産に関する仕事を5〜10年経験した方の場合、年収の目安は500万〜1,000万円程度です。
幅広い業務経験を積むことで、年収が上がり、自身の成長を数値としても実感できるでしょう。
さきほど紹介したスキルに加え、
- 弁理士資格の取得
- 語学力
- 経営戦略、M&Aの知識
- 財務の知識
などを備えていると、キャリアアップをしやすくなります。
残業って多い?
知財部員の残業時間にはばらつきがあります。
これは出願業務や調査業務が、原料や製品などの研究開発スケジュールに依存するためです。
複数の案件が重なった場合や出願の内容により、一時的に残業が多くなる時期もあります。
キャリアプランは?
知的財産に関する仕事には、多くのキャリアプランがあります。
- 異業界の知財部への転職
- 特許事務所への転職・特許事務所の設立
- 異業種への転職 など
どのような職種においても、新卒で入社した後のキャリアプランは気になるものでしょう。
いずれのキャリアにも魅力や特徴がありますので、それぞれお話していきます。
異業界の知財部への転職
知財関連の仕事の場合、特許法をはじめとした産業財産権に関する法律、という共通ルールが存在します。
そのため、異なる事業を行う企業に転職しても即戦力となりやすい仕事であると言えます。
とはいえ、異業界への転職はハードルが高く思えることでしょう。
新卒で知財部に所属することを検討する際は、多数の事業にまたがる経営をしている企業を選ぶとよいかもしれません。
最初のキャリアで複数の事業に関する出願業務を経験することで、その後のキャリアの幅が広がると考えられます。
特許事務所への転職・特許事務所の設立(独立)
企業の知財部員を経験後に、特許事務所へ転職される方も少なくありません。
特許事務所では、複数の企業の発明に触れることができます。
また特許事務所での経験を積んだ後、ご自身で事務所を設立するといったキャリアへ進むこともできます。
なお、企業の知財部から特許事務所に転職される際は、弁理士資格を保有していることが望ましいです。
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異業種への転職
異業種の転職先として
- 研究開発
- 経営企画
- 法務
などがあげられます。
専門性が高い知財部から異業種へ転職することは、別業界への転職よりも難しいイメージを持たれる方も少なくないでしょう。
研究開発職が取得したデータを見慣れている知財部員は、むしろ研究グループのマネジメントに向いていると言われることもあります。
また上述したように、経営における知財の存在価値が高まっている現在は、知財部員が経営企画部に異動する難易度は低くなってきています。
知財部での経験を活かし、経営コンサルタントとして働かれている方もいらっしゃいます。
知財部の存在意義とは?
知財部の存在意義を一言でまとめると「経営を支える専門家集団」です。
知財部は各企業が第三者の権利を侵害しない限り、表に出て何かを行う部署ではありません。
どの企業にも知的財産に関する仕事を担当している部署があるはずですが、他部署から見ると何をしているか理解されていないことも多くあります。
ここでは、知財部がどうして企業になくてはならない存在であるかを詳しくお話していきます。
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発明の発掘
産業財産権に関する法律を理解し、日々第三者の特許出願に触れている知財部員の視点は、自社の発明を発掘するために欠かせない存在です。
特許や意匠などの出願を行う際に必須のステップとして、研究・開発部門からの技術情報の収集があります。
実は発明と呼べる研究結果が出ていたとしても、当事者からすれば当たり前の結果と考えてしまっていることも少なくありません。
また研究・開発部門が考えているよりも、世の中に知られていない「発明」の範囲が広いこともあります。
研究・開発部門が取得したデータを見つめ、発明を発掘することは、知財部の重要な仕事の一つです。
自社製品・研究成果の保護
特許出願を行った後に、知財部が行う仕事が権利化です。
権利化をすることによってはじめて、第三者が自社の技術を模倣した製品を製造販売できなくなります。
すでに販売している製品や、社内の研究成果を保護するために、権利化の業務を行う知財部は不可欠です。
時間をかけて開発した製品の、市場における寿命を伸ばすために、特許権の取得は重要となります。
経営における知財
近年、経営においても知財部は無視できない存在となっています。
知財部と聞くと、専門性が高く、関わる仕事の範囲が狭いイメージを持たれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
2021年に公表されたコーポレートガバナンス・コードの改訂版では、知的財産に関する項目が新たに記載されました。
知的財産への投資について、自社の経営戦略との関係を明確にし、具体的に開示すべき旨が盛り込まれています。
各業界における知財部の仕事とは?
どの業界においても、知財部が特許・意匠・商標をはじめとする産業財産権に関する法律をもとに仕事をする点は、共通しています。
しかし業界ならではの考え方に基づき、仕事を進めることがあるのも事実です。
ここでは、通信業界とアパレル業界を例に、知財部の出願業務の特徴をご紹介します。
他にも飲料メーカーの知財部を描いたドラマがあります。日テレドラマ「それってパクリじゃないですか?」という作品で、弁理士による解説記事(各話ダイジェスト動画付き)もぜひお読みください。
通信業界
通信事業において、知財部はどのような出願を行うのでしょうか。
たとえば、電気通信技術に分類される特許出願は、2015年以降に公開されているものだけで約25万件行われています。
競合他社の多い事業を継続する上で、自社の技術を知的財産権で保護することは重要です。
ここでは、ソニーとヤマハのヘッドホン・イヤホンを例に、具体的にどのような出願を行っているのかをご紹介します。
ソニー
ソニーは、近年ノイズキャンセリング機能と外音取込機能を兼ね備えたヘッドホンに関する特許出願や、新しいモデルのデザインの一部に関する意匠登録出願などをしています。
一つの製品に関わる技術をもとに取得できる権利は、一つではありません。
知財部は、数多くのメーカーからヘッドホン・イヤホンが販売されている中、事業を継続していくために様々な出願を行います。
グループ会社も含めると、ソニーの毎年の出願件数は、特許だけでも1,000件以上です。
このような大企業の知財部に入社することで、日々発明に触れることができるでしょう。
ヤマハ
続いて、ヤマハの出願を見ていきましょう。
先ほど触れた外音取込に関する出願を調べてみると、ヘッドホンのマイクが収音する不快な風切り音を抑える技術について特許出願をしています。
また、ソニーと同様に、意匠登録出願も行っています。
このように、各企業は第三者の知的財産権を侵害せず、かつ、自社の技術に関する出願を行っているのです。
第三者の知的財産権の調査、自社の出願の権利範囲の検討を行う知財部は、企業の存続のために不可欠であると言えるでしょう。
アパレル業界
アパレル業界の知財部はどのような出願をしているのでしょうか。
近年、みなさんも日常的に着用するようになったであろう、マスクに関する特許出願を見てみましょう。
ファーストリテイリングからは、マスクの構造に関する特許出願がされています。
- どのような生地を重ねているのか
- どの部分が縫われていることでマスクの形状を保持しているのか
といった特徴を特許の明細書に記載し、権利化しています。
業界によって、特許出願により取得する「第三者が真似できない技術的範囲の検討方法」が大きく異なるのです。
ヘッドホン・イヤホンは目に見えない技術の部分について、一方で、マスクは目に見える物の構造について、権利化を検討しています。
今回紹介させていただいたのはほんの一例です。
知財部に興味がありましたら、各業界の企業がどのような出願を行っているのかを調べてみてはいかがでしょうか。
まとめ
ここまで読んでいただき、いかがでしたでしょうか。
新卒で知財部に入ることやその後のキャリアプランについて、少しでも参考になることがありましたらうれしいです。
知的財産に関する仕事は、他の部署よりもやや複雑な部署に思えるかもしれません。
知財部は、企業の存続を左右することもあるほどの価値のある無形財産を管理する、専門性が高い部署です。
大きな責任を伴いますが、今回の記事でご紹介したことを含め、魅力的な経験をたくさんできる部署でもあります。
少しでも知的財産に関する仕事を魅力に感じていただけたのであれば、新卒の配属先の候補の一つとして、知財部を検討してみてはいかがでしょうか。
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知財部門では、主に特許出願・権利化業務を担当してきました。