特許翻訳者への道 トライアル攻略法
マーケットのグローバル化に伴い知的財産活動のグローバル化が進んでおり、特許翻訳の重要性はより増しています。
ここでは、特許翻訳者としてのキャリアを歩んでいくためには?という観点でポイントを紹介します。
翻訳トライアルとは?
翻訳会社や特許事務所が行っている、特許翻訳者の採用試験。これが一般的に(特許翻訳者の)トライアルと称されています。
特許翻訳者としての道をスタートする、または特許翻訳者としてのキャリアを拡げていく、という場合には、このトライアルをパスする必要があります。
トライアルの形態は翻訳会社や特許事務所ごとに特徴が分かれますが、押さえておくべきポイントはぶれずにあります。
経験は考慮される?未経験は無理?
翻訳トライアルの合否を決めるとき、経験はもちろん考慮されますが、その「経験内容」まで注視されます。ですから翻訳経験・英語業務の経験者が有利、とは限りません。
具体例として著者が経験した採用事案において
- 企業や商社にて海外の取引先と英語でやりとりを行っていた
- 英語のプレゼン資料や英語の取扱説明書などを作成する業務を行っていた
といったケースもありましたが、採用する側のモチベーションとしては弱い面がありました。
とりわけ特許翻訳は特殊で、一般的な英語翻訳とは異なる面があります。これは出願書類が「権利書」としての役割を持つためです。
また理系的な論理的思考ができるか、もとても重要です。まとめると、以下のような点を採用担当者は確認します。
- 特許事務所や翻訳会社の勤務経験
- 出願書類等の翻訳経験
- 交渉や係争案件に関しての翻訳経験
- 理系的な論理的思考ができるか
- 理工学系の知識を有しているか
- そういった分野の業務に携わっていたか
一方で、例えば全くの未経験だからといってただちに不採用、ということも決してありません。以下もぜひ参考にしてください。
トライアル合格のために、TOEICのスコアは重要?
率直に言うと、一定のレベルを超えてさえいれば、TOEICの点数はさほど重要視されないことが多いです。(一定レベルに達していなければその時点で選考から外される、とも言えます)
TOEICのスコアと特許翻訳の質とは、別物です。採用する側は、TOEICのスコアが高い=翻訳の質が高い、という見方はまずしません。
翻訳業務を行うにあたって必要最低限の知識を有しているか、という観点で、TOEICのスコアを一応の参考程度に見るのが実情です。
なお世の中には「知財翻訳検定」など、知財翻訳に特化した資格もあります。そのような資格をカバーしておくことは有効です。
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年齢は考慮される?
やはり採用の現場において、年齢というのは重要視されます。
採用の現場では、全くの未経験であれば新卒〜20代くらいまで、経験者であれば30代半ばくらいまで、というのが一つの区切りになります。
それ以上の年齢の方に期待されるのは「即戦力」です。特許事務所や翻訳会社での経験やスキルが十分にあって要領も分かっている人材は強いです。
ここで誤解のないように補足しておくと、年齢そのものというより、一般的には年齢の若いほうが吸収や飲み込みが早く、特許翻訳に特有のスキルも身につけやすい、というのが大きく関係しています。
また同じ文章を翻訳した場合でも、バックグラウンドやその人の経験などによって、訳した文章に個性や翻訳の「くせ」が出ることが多いです。
ポジティブな言い方をすれば固定観念が少ない、という若手のほうが修正がききやすく、その点で、採用において有利、ということがあるのです。
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トライアルの合格率は?
採用側の目も年々厳しくなっていることは間違いありません。機械翻訳・AI翻訳の精度がより向上していることも影響して、翻訳スキル、コミュニケーション能力などがより高いレベルで求められるようになっている印象です。
合格率について明確なデータがあるわけではありませんが、一般的には、また著者の経験則上では、書類選考の段階で30~50%程度に絞られ、二次選考(面接、最終選考)に至った応募者のうち、3~4人に1人程度が最終合格、というような感覚が近いと思われます。
10人の応募があれば最終合格できるのは1~2人程度、といったところです。
決して甘くはない数字だと思いますが、次に、合格の可能性をあげるためのポイントを紹介します。
トライアル合格のために、外してはいけない4ポイント
トライアル試験において外してはいけないポイントがありますので、押さえておきましょう。
1.訳抜け、誤字脱字はご法度
訳抜け、誤字脱字などは即アウト!と心得てください。
トライアルの態様にもよりますが、ツールでのチェックが禁止されていない状況なら、チェックソフトやアプリケーションを活用してミスを潰しましょう。
そうでなければ、セルフチェックをしっかり行ってください。
ケアレスミスが全く無いこと、これはトライアルをパスするスタートラインです。
2.原文の内容に忠実に
トライアルの試験ルールにおいて特に断りのない限り、原文の内容に忠実な逐語訳を作成することが原則です。
上記で「誤字脱字はご法度」と解説しましたが、仮に原文に誤字脱字があったとした場合には、原則その誤字脱字のとおりにそのままに翻訳してください。
矛盾していると思うかもしれませんが、特許翻訳者に求められるのは基本的に、原文に忠実な逐語訳を作成するスキルです。この理由は、各国の法律や国際的な条約上において、逐語訳を提出することが要請されているためです。
「原文に誤記があったため訂正して翻訳しました!」といったやり方は「この人、知財を分かっていないな…」と嫌われます。ご留意ください。
3.コメントを必ず付ける
翻訳文の作成においては「どのように訳せばよいか」と迷うポイントが必ずありますよね。また前述のように、原文に誤記があるケースでは不安になります。「原文の誤記のとおり訳したけど大丈夫かな?」と気がかりになるでしょう。
そのような箇所には
- どう考えたか
- どのような検討をしたか
- 結果どのように翻訳したか
という思考の過程をコメントで残しましょう。
最終的な翻訳結果はもちろん大事ですが、どのような思考・検討がなされたのか、はもっと重要です。
知的財産分野の業務において、最終的なチェックは弁理士が行います。それをしっかり念頭に置いて、弁理士が翻訳の妥当性をチェックしやすい納品物を納品する、という意識を持ちましょう。
4.メール等のやりとりも評価ポイントになる
トライアルの試験のみでなく、その試験や面接までのメール等でのやりとりも評価の対象に入ります。
メール文章での誤字脱字、違和感のある文章(違和感のある日本語)、などがチェックされます。
なお試験や面接の日程変更などは、本人の事情や都合もありますから、遠慮なく申し出れば良いでしょう。このような点は採用の是非において、さほど問題にならないのが昨今です。
今後どうなる?特許翻訳者への道
機械翻訳をどう考えるか
近年、機械翻訳・AI翻訳の精度が格段に向上しています。翻訳者の業務もAIにとって代わられると言われて久しいです。
しかし、翻訳者の業務はまだまだ無くなっていません。
これは著者の個人的な意見ですが、機械翻訳・AI翻訳では、文字の翻訳はできても「趣旨」の翻訳はまだまだ出来ません。
このあたりが、特許翻訳者の生きる道かな、と思います。
また機械翻訳を上手に活用する(機械翻訳との共存)という考え方もポイントです。
翻訳の仕事、将来性は?
特許翻訳者の将来性は「無い」とは言えませんが、現実的には「明るい」とも決して言えないでしょう。
上記のとおり、機械翻訳・AI翻訳の精度は格段に向上しています。ある程度ならば、ソフトやアプリで翻訳できてしまいます。
弁理士の立場としては、機械翻訳が今後どのように更なる発展をしていくかは興味深い点です。
AIでは出来ないような、「趣旨」を踏まえた翻訳や専門家(弁理士)との有益かつ円滑なコミュニケーションが、これからの特許翻訳者に求められる重要なスキルであることは間違いありません。
まとめ
知的財産業界においては、優秀な特許翻訳者の確保、というのは重要な課題となっています。
機械翻訳、AI翻訳、の精度が向上しているとはいえ、知的財産分野の翻訳に関して言えば、機械翻訳、AI翻訳でカバーすることはまだまだ難しい、との見方もあります。
今回の記事が特許翻訳者としてのキャリアを目指している方の参考になれば幸いです。
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エンジニア出身です。某一部上場企業にて半導体製造装置の設計開発業務に数年携わり、その後、特許業界に転職しました。
知財の実務経験は15年以上です。特許、実用新案、意匠、商標、に加えて、不正競争防止法、著作権法、など幅広く携わっています。
諸外国の実務、外国法にも長けています。