どんな人が弁理士(知財業界)に向いている?現役弁理士が話します
著者は知財業界に携わってもう20年近くになります。知財業界に転身する前は、自身が知財業界に向いているかどうかなんて分かりませんでしたし、正直、考えもしませんでした。
ただ「弁理士」という資格に惹かれて飛び込んだ、という感じです。今考えると、いささか無謀だったかと…(汗)。
幸い、弁理士の資格を取得して弁理士としても15年以上の実績を積むことができました。また、近年は採用にも関わっています。
その経験から、著者の観点で「どんな人が知財業界に向いているのか」について紹介します。
知財業界のやりがいは?弁理士の楽しさ
やりがいは?と聞かれると、著者の場合、まずは「世に出る前の技術、アイディアに真っ先に触れられること」と答えます。
弁理士のもとには、特許など知的財産権の取得のための相談が日々持ち込まれます。
市場に出る前の開発段階の新製品や改良品、まったく新しい装置やシステム、新しいブランド(商標)など…。こういったものに真っ先に触れられることは、とてもわくわくしてモチベーションが上がるものです。
そして、無事権利を取得できてクライアントに感謝されたとき、権利化までの苦労が報われてようやく「ホッ」と肩の荷が降りたときも、「この仕事やってて良かった!」と心から思える瞬間です。
とりわけ特許の場合、権利取得は簡単でないことが多く、最終的に権利化を断念せざるを得ないケースもあります。
権利化を実現してクライアントの事業発展に貢献できること、これももちろん大きなやりがいとなります。
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弁理士(知財業界)に向いている人 特徴5つ
さて、では具体的にどんな人が知財業界に向いているのでしょうか。
著者の目線で知財業界に向いている人の5つのポイントを紹介します。
- 新しいモノ好き、好奇心旺盛な人
- 論理的思考ができる人
- 言語能力が高い人
- コミュニケーション能力が高い人
- 時間感覚が速い
1.新しいモノ好き、好奇心旺盛な人
権利化においては新しいモノを扱う
権利化においては、基本的にまだ世に知られていないモノを扱います。
例えば、特許・実用新案、意匠などについては、そもそも既に公知であるものについては、新規性がないと権利化することはできません。ですので、公知でないものを取り扱うことになります。
新しいモノにわくわくするような人に向いている職業でしょう。
どんなことにも興味関心を持つ
権利化においては、従来からあるものと比較して、何がいいの?どこがいいの?ということ(従来技術に対する「進歩性」といいます)を論理立てて表現する必要があります。
この進歩性を上手く説明するためには、その発明について興味を持って深く理解することが求められます。
ここで大事なのは、「好奇心」ですね。
時には発明が生まれた背景、経緯なども権利化における重要な要素になりますので、どんなことにも興味関心を持つ姿勢が重要です。
2.論理的思考ができる人
なぜ特許性があるのか?の論理
特許の進歩性について、やみくもに主張しても説得性に欠けます。
実は特許の出願書類には一定の型があり、順序だてて特許の進歩性について説明することが求められます。ですので、論理的思考ができるかどうかは重要な要素です。
具体的には、出願する発明について、以下の流れに沿って論理を展開します。
- どのような技術分野における発明か
- この技術分野において、従来技術はどのようなものであったか
- 従来技術が抱えていた問題、課題
- その問題、課題に照らし、どのような技術が求められているか
- 問題、課題を解決するための具体的な手段(本願発明)
審査官を納得させられるか
権利を付与して良いかどうかは特許庁の審査官が判断します。審査官は、それぞれの分野の専門知識、知見に長けたプロフェッショナルです。
権利化を実現するためには、審査官を納得させる必要があり、論理vs論理の応酬となります。
審査の結果、従来のものと比較して進歩性が無いと判断されれば、「拒絶理由通知」というものが通知されます。この通知が届いた後も、こちらの言い分を認めてもらえるよう、論理的に分析・対処していかなければなりません。
3.言語能力が高い人
発明・アイディアを言語化する能力
出願した特許を権利化するためには、権利化したい発明・アイディアを言葉によって具体的に表現(具現化)して申請しなければいけません。
しかも特許庁での審査や、裁判所での裁判にも耐えられるよう、分かりやすく、そして誰が見ても疑義が生じないよう、正確に表現することが重要になります。
ですので、国語の能力というのはクリティカルに効いてきます。
理系の知識があることに加えて、言語能力=国語の能力が高い人は知財業界に非常に向いていると言えます。
言葉で表現する、というのは意外に難しいものです。自身も、修行時代は、目に見えたものを言葉で表現する、というトレーニングをひたすら行いました。
出願書類=権利書
権利化のための出願書類というのは、権利書とも言えます。ですので、弁理士は一つひとつの言葉の意味、定義までとことん吟味します。
自身も、たった1つの単語の意味、範囲について同僚と何時間も議論したこともあります。
4.コミュニケーション能力が高い人
発明を掘り起こす
知財業界においては、特許事務所勤務であれ企業知財部勤務であれ、やはり権利化は重要な業務になります。
その際必須となるのが、発明者とのコミュニケーションを通じて、発明を適切に掘り起こし具現化していくスキルです。
実は発明の本質について、発明者さえ気付いていない、ということも多いのです。発明者が「発明」と思っているポイントと違うところが真の発明であった、ということは珍しくありません。
審査官とのコミュニケーション
先に述べたように、権利化の段階においては、特許庁の審査官と論理vs論理の応酬をしていくことになります。
審査官の言い分を理解しつつ、その言い分を崩していく(こちらの主張を認めてもらう)、という能力が求められます。
5.時間感覚が速い人
権利化は早い者勝ち
同一・類似の発明・アイディアについては、先に出願した人が権利を取得できます。他の者に遅れをとって出願しても権利化は叶いません。
そのため、クライアントからの依頼に応じて、タイムリーに対応することが求められます。
また権利化のためには、法的に規定された法定期限内に手続きを行う必要があります。
他業種同様、知財業界においても、期限内にスピーディーに対応できる人は高く評価されます。
こんな人は弁理士(知財業界)に向いていないかも
逆に、こんな人は知財業界には不向き、と言えるでしょう。
- 右脳派の人(ひらめき派の人)
- 活字が苦手な人
- クリエイティブ性に弱い人
1.右脳派の人(ひらめき派の人)
知財業界における業務では、論知的思考や言語という、左脳的な要素が求められます。
もちろん、ひらめきや感覚といったような、右脳的な要素もあるととても有用ですが、いかに左脳的な思考ができるか、というのがやはりポイントになると思います。左脳的な思考や数学的な思考が苦手な人(右脳派の人)には、向いていないという面が大いにあります。
もちろん右脳派の人にも良い話はあります。
例えば意匠などのデザイン、商標などのブランドの分野においては、むしろ右脳的な要素が必要でしょう。
具体的には、あるデザインやブランドに接したときに、従来のものとどう違うのか、というような感覚が、権利化できるか否かにおいて重要であったりします。直感的なものですね。
2.活字が苦手な人
知財業界において、過去の申請書類は全て公報というかたちで公開されています。公報は数十年分が蓄積されており、知財に携わる人は、日々、膨大な量の公報に目を通しています。
また、そのような公報のみでなく、各種論文や過去の裁判例など、あらゆる文献を読み込むことがどうしても必要です。
ですので、文書を読むことが苦手な人、活字が苦手な人にはつらいでしょう。逆に文書を読むことが大好きで苦にならない人には、良い環境と言えます。
3.クリエイティブ性に弱い人
意外かもしれませんが、実はクリエイティブ性も求められます。
知財業界のような堅苦しい印象の業界において、「クリエイティブ性」は似つかわしくないように思えるかもしれません。
しかしアイディア、思想を言葉で表現する際に「どのように表現するか」という点で非常に苦悩します。
知財業界の業務では、あらゆるクリエイターと同様に、「生みの苦しみ」を味わうことになる、と思っています。
新しいアイディア、思想に触れたときのわくわく感の次には、「さて、どう表現しようか、どう表現すべきか」という苦悩が待っているのですね。
まとめ
ここまで、知財業界に向いている人について著者の目線で紹介しました。
改めて整理すると、
- 新しいモノ好き、好奇心旺盛な人
- 論理的思考が出来る人
- 言語能力が高い人
- コミュニケーション能力が高い人
- 時間感覚が高い人
は知財業界に向いていると言えます。
いずれか1つでも備えていれば、知財業界で活躍できる資質はあると思います。
自分が備えているか自信がないなー、という人でも、もちろん、知財業界で活躍したい!というようなマインド・情熱に勝るものはありません。
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エンジニア出身です。某一部上場企業にて半導体製造装置の設計開発業務に数年携わり、その後、特許業界に転職しました。
知財の実務経験は15年以上です。特許、実用新案、意匠、商標、に加えて、不正競争防止法、著作権法、など幅広く携わっています。
諸外国の実務、外国法にも長けています。