【弁理士解説】弁理士試験の最終関門「口述試験」を突破するポイント
口述試験とは?弁理士試験における位置づけ
口述試験とは、短答試験と論文試験に合格した受験者が受ける試験であり、面接方式で行われます。弁理士試験における最終試験であり、口述試験を無事通過すると弁理士試験に合格できます。
口述試験の概要
口述試験の概要を解説します。詳細は、特許庁のホームページや弁理士試験の受験願書をよく読み込みましょう。
試験日程、場所
口述試験は、例年10月中旬から下旬に行われます。場所は東京です。近年は東京都港区にある、ザ・プリンス・パークタワー東京で行われています。
試験の内容
口述試験の科目は、以下の3つです。
- 特許・実用新案に関する法令
- 意匠に関する法令
- 商標に関する法令
試験時間は、各科目とも10分程度です。受験者が各科目の試験室を順次移動する方法が採用されています。
合格基準についてですが、まず各科目でA,B,Cの評価を行います。そしてC評価が2科目以上あった場合に不合格となります。
ちなみに試験中は、試験委員の許可を取れば、室内にあらかじめ用意されている弁理士試験用法文集を参照できます。
近年の合格率はどれくらい?
最近3年間の合格率は、次のようになっています。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2019年度 | 295人 | 284人 | 95.6% |
2020年度 | 282人 | 278人 | 98.6% |
2021年度 | 215人 | 194人 | 90.2% |
近年の合格率は90%台ですから合格しやすいとも思われますが、試験前の準備が不十分だと落ちることもあります。
口述試験の準備・対策ポイント
口述試験の準備では、インプット(暗記)をどれだけするか、がポイントになります。今回はこのインプットと、口述試験ならではの対策であるアウトプット(口述模試)について、説明します。
効果的にインプット(暗記)する方法
インプット方法は、過去問や受験機関の問題集に何回かチャレンジし、解けなかった箇所を復習するという方法が一般的です。
このとき、解くことのできなかった原因を明確にしたうえで復習することが重要です。たとえば手続きの流れを理解していないのか、条文の趣旨を覚えていないのか、等の理由によって勉強しなおす箇所が変わります。
また口述試験特有の質問に「条文に則して答えよ。」という問いがあり、条文の用語を正確に答えることが要求されます。
とはいえこの質問で聞かれる条文は、過去問を検討することである程度絞れるため、しっかり暗記しましょう。
アウトプット(口述模試)対策をするコツ
口述試験のアウトプットは、受験機関や弁理士の会派が行っている口述模試を活用するのが一般的です。
口述模試は、論文の合格発表で合格を確認したらすぐに申し込みましょう。口述模試は数個程度ありますが、大半の受験者は複数の模試を申し込むため、早期に申し込まないと、満員になることがあります。
なお弁理士の会派が行っている口述模試は、インターネットなどで情報を入手することが難しく、仕事や試験勉強でつながっている弁理士から紹介してもらうことが多いです。
口述模試では特に、質問に対する受け答えに注意してください。
具体的には、質問に対する回答をなるべく短くし、次の質問をすぐに引き出すことが重要となります。
この受け答えの短さは、質問に対する回答が違っている場合に効果が高く、時間のロスを少なくできますよ。
試験当日の動き
試験は、特許・実用新案の試験をする部屋、意匠の試験をする部屋、商標の試験をする部屋を順番に回っていきます。
試験時間は10分であり、開始から8分程で1回目のチャイムがなります。また、開始から10分を経過すると、再度チャイムがなり、その後、試験終了となります。
時間内に用意された設問が終わらない場合であっても、試験終了となることがあります。
まとめ ~筆者の再現答案~
最後に筆者が口述試験を受けたときの再現答案(意匠法)をお届けします。平成22年度の口述試験になります。
この再現答案を見ても、条文を正確に言えないと、なかなか次の問題に進んでくれないことが見て取れると思います。
口述試験に合格し、共に弁理士として活動できることを楽しみにしています。
現役弁理士の再現答案
試験官:意匠法は、秘密意匠についてお聞きします。
試験官:秘密意匠として意匠登録を受けるメリットを教えてください。
私:意匠権の設定の登録から一定期間、願書及び願書に添付した図面等を秘密にすることができるため、他社に意匠の動向を知られないというメリットがあります。
試験官:他社に知られたくなければ、出願をしなければいいのではないですか?
私:先願としての意匠権を確保しつつ、設定登録後一定期間について意匠を秘密にすることができる点で、秘密意匠のメリットがあります。
試験官:では次の問題に移ります。秘密を請求することができる期間はいつですか?
私:意匠権の設定の登録から3年です。
試験官:秘密にする期間の変更はいつできますか?
私:意匠登録出願中、及び意匠権の設定の登録後にすることができます。
試験官:では秘密意匠の請求は、いつできますか?
私:意匠登録出願と同時、または1年次の登録料の納付と同時です。
試験官:第1年分の登録料の納付と同時ということですね?
私:はい。
試験官:では秘密意匠による意匠権について、権利行使をする際の留意点を教えてください。
私:差止請求をする際には、37条3項に規定する書面を提出して、警告をした後でなければ、差止請求をすることができない点に留意します。
試験官:37条3項の書面について、具体的に教えてください。
私:20条3項に掲げる書面であって特許長長官の…
試験官:そこまで細かいことは言わなくて良いですよ。
私:(今言ったことは、14条4項4号だよな…、2秒ほど沈黙の後)条文を見てもよろしいでしょうか。
試験官:いいですよ。
私:(条文を見た後)20条3項に掲げる事項を記載した書面であって、特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告した後でなければ、差止請求をすることはできません。
試験官:では、その他に留意することはありますか。
私:損害賠償請求の際には、意匠が開示されていないため、過失の推定が適用されません。
試験官:つまり、どういうことですか?
私:過失の推定が適用されないため、意匠権者は、損害賠償請求に際して自ら過失を立証する必要があります。
主査:もう少し正確に言ってください。
私:(2~3回言い直しました。詳細は憶えていないです)
試験官:では、これで意匠法の問題を終わります。
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。