弁理士は理系じゃないとダメ?
弁理士は理系資格と言われているくらい、理系出身者がほとんどを占める資格です。今回は、理系じゃないと本当にダメなのか?という観点で弁理士資格について堀り下げてみます。
弁理士=理系の最高峰資格!
弁理士は「理系の弁護士」と言われるほど難易度が高く、理系の最高峰資格、最難関資格です。令和5年度の合格率は、わずか6.1%です。
ちなみに弁護士の令和5年度の司法試験の合格率は42.8%でした。ただし、試験のスタイルが異なるため単純比較はできません。
参考
理系出身者が弁理士になるメリット
弁理士の業務としては、「知的財産」を扱うものが主となります。その中でも特に、「特許」に関する業務がコアとなるでしょう。
この特許に関する業務をするうえで、理系の知識が求められるのです。
特許、つまり発明です。発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度のもの」です(特許法第2条)。
発明を理解するにあたっては、自然科学法則、すなわち理系の知識が求められますので、理系の知識を有する理系出身者のほうが有利であることには間違いありません。
なお実用新案、意匠、商標などに関する業務もありますが、割合としては、特許に関する仕事が圧倒的に多いです。
一部試験の免除を受けられる
理工学系か法律系の院卒(修士、博士の学位を有する場合)、また所定の専門職の学位を有する人は、2次試験の論文試験において、一部試験が免除されます。
また所定の公的資格を有する場合も、同様の免除が受けられます。免除を受ける際の選択肢としては理系のほうが選択肢が多く有利と言えます。
【一部試験が免除される公的資格】
- 技術士
- 一級建築士
- 第一種電気主任技術者
- 第二種電気主任技術者
- 薬剤師
- 情報処理技術者
- 電気通信主任技術者
- 司法試験合格者
- 行政書士
- 司法書士
理系出身のデメリット
弁理士は、特許など、技術的思想を扱うことに加えて、法律も扱います。
理系出身者は、そういった法律に関してはあまり触れる機会はないのではないでしょうか。この点では、あまり慣れていないとも言える法律的な思考、理解を鍛える必要があります。
弁理士として働くなら、弁理士業務に必要な法律知識と、それらの法律のベースにある法令への理解が求められます。
- 四法(特許法、実用新案法、意匠法、商標法)
- 著作権法
- 不正競争防止法
- 独占禁止法
- 各種条約
- 民法
- 民事訴訟法
- 行政法(行政不服審査法など) など
こうしてみると、カバーすべき法律はそれなりに多岐にわたります。
試験合格や就職に、学歴は関係ある?
どの業界においても気になる、「学歴って関係あるの?影響は?」という話題ですが、弁理士業界においてはどうなのでしょうか。
合格者の出身大学ランキング
まず、令和5年度の弁理士試験合格者の出身大学ランキングをみてみましょう。令和5年度弁理士試験統計からの抜粋です。
- 東京大学 22人 (11.7%)
- 京都大学 14人 (7.4%)
- 早稲田大学 11人 (5.9%)
- 慶應義塾大学 11人 (5.9%)
- 東京工業大学 10人 (5.3%)
- 東北大学 9人 (4.8%)
- 大阪大学 8人 (4.3%)
- 北海道大学 7人 (3.7%)
- 筑波大学 5人 (2.7%)
- 上智大学 5人 (2.7%)
どうでしょう、あなたの出身大学はありますでしょうか。
統計を見ると、やはり、レベルが高いとされる大学が上位に並んでいるようです。
就職・転職の現場ではどう判断される?
さて、合格者の出身大学ランキングをみてみましたが、就職・転職の現場では、学歴はどのように評価されるのでしょうか。著者は採用にも長年関わっていますので、採用者としての観点から触れてみたいと思います。
結論から言えば「学歴は関係ない!」と言えばウソになる、というのが現場の実情です。個人的にも、本音としてはそのように思います。
ただし勘違いはして欲しくないですが、学歴は、ベースとなる地頭力があるか、という観点での参考情報です。採用の現場では学歴重視、という意識はなく、学歴だけで決めるということも一切ありません。
最終的には過去の経験、実績、本人のやる気、コミュニケーション力、人間力、などが採用者に響きます。つまり重要になってくるのは学歴とはまた別の観点の要素です。
事務所次第、という一面も
さらに特許事務所の場合、事務所次第、ということにもなります。
学歴を最重要視する事務所であれば、当然、学歴のある人のほうが有利になりますし、そうでなければ、学歴に関係なく、実力重視になります。
特許業界は実力主義、実績主義の色が濃いため、学歴がなくとも、やる気次第で大きく成功できる可能性があります。
その点では、一般企業などと比較すると、特許事務所は夢があるように思います。
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試験志願者統計からみる傾向
実際のところ、理系、文系の割合はどれくらいなのでしょう。ここでは、令和5年度の弁理士試験の志願者統計からアプローチしてみます。
理工系と法文系
令和5年度の弁理士試験の志願者の総計は3,417人でした。出身系統別の内訳は次のようになっています。
- 理工系 2,392人 (70.0%)
- 法文系 755人 (22.1%)
- その他 270人 (7.9%)
理工系が約7割を占めています。
職業別内訳
ここで、職業別の内訳を見てみると、次のようになっています。
- 会社員 1,722人 (50.4%)
- 特許事務所 738人 (21.6%)
- 無職 342人 (10.0%)
- その他 165人 ( 4.8%)
- 学生 131人 ( 3.8%)
- 公務員 144人 ( 4.2%)
- 自営業 102人 ( 3.0%)
- 法律事務所 51人 ( 1.5%)
- 教員 22人 ( 0.6%)
まとめると理工系出身が多く、かつ会社員が多いのが分かります。傾向からすると、開発メーカーや製造メーカーなどのいわゆるモノづくり企業に従事する、理系出身が多いのが実情でしょう。
文系でも弁理士になれる?
これまで見てきたとおり、弁理士には理系出身者が多いのですが、文系出身者でも弁理士になれるのでしょうか。なれたとしても、弁理士として活躍できる道はあるのでしょうか。
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試験合格までの難易度
弁理士試験の合格の難易度、という観点では、理系出身でも文系出身でもさほど差はなく、平等と言えるでしょう。ただ後で説明しますが、選択の幅が広がる分、理系出身のほうがやや有利かもしれません。
弁理士試験では、必須科目と選択科目とがあります。
必須科目は、四法を中心とした法律に関する科目です。選択科目には、理工学系の科目に加えて、法律科目が1つのみ含まれます。
文系の場合、理工学系の知識がなければ選択科目は法律科目にするより他がないかもしれませんね。
文系弁理士としての活躍の仕方
文系弁理士でも活躍できる道は多くあります。例えば、意匠、商標などを専門とする選択肢があります。
経営や経理などの知識に長けていれば、知的財産と絡めての企業コンサル、という選択肢もあります。
発明、特許を専門に扱う以外にも、知的財産の分野においては様々な活躍の道がありますので、文系出身だからといってマイナスに考える必要はありません。
またやる気があれば、大学に通い直して理工学系の学位、修士、博士などをとる、という選択肢もありますので、文系弁理士にも成功の道は開かれています。
まとめ
見てきたとおり、弁理士は理系の最高峰の資格であり、理系出身者がほとんどを占めます。
理系出身者にとっては、弁理士は憧れの資格とも言えるのではないでしょうか。
試験合格の難易度は高いですが、将来的なキャリアを考えると、チャレンジする価値はあると言えます。
また、文系出身者でも、諦める必要はなく、弁理士資格を取得して活躍できる道はたくさん用意されています。
今回の記事が参考になれば幸いです。
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エンジニア出身です。某一部上場企業にて半導体製造装置の設計開発業務に数年携わり、その後、特許業界に転職しました。
知財の実務経験は15年以上です。特許、実用新案、意匠、商標、に加えて、不正競争防止法、著作権法、など幅広く携わっています。
諸外国の実務、外国法にも長けています。