米国弁理士について解説します

米国弁理士とは

米国弁理士とは、米国特許商標庁(USPTO)に対する特許・意匠出願や審判に関する手続代理をできる資格であり、Patent  Agentと呼ばれています。

米国弁理士の主な業務は、特許や意匠の出願業務や、特許や意匠の審査におけるオフィスアクション(拒絶理由通知)への対応です。

その一方で米国弁理士は、日本の弁理士と異なり、商標登録出願に関する手続代理をすることができません。アメリカにおいて商標登録出願に関する手続代理は、後に説明する米国弁護士(Attorney at law)や特許弁護士(Patent Attorney)によって行われます。

米国弁理士になるためには

米国弁理士になるためには、米国弁理士試験に合格し、その後USPTOに登録する必要があります。

米国弁理士の試験合格率は40%台ですが、米国特許の実務をしていて英文に抵抗のない方であれば、2~3ヶ月の試験勉強で合格することが可能です。

ただしUSPTOへの登録については、後に説明するように、永住権を有する等の条件を求められます。

受験資格

米国弁理士になるためには、いくつかの条件を満たしている必要があります。詳細はUSPTOのホームページに記載されていますが、概要をご紹介します。

まず理工系の大学、または大学院を卒業している必要があります。

そして専攻学部にも指定があり、機械工学、物理学、生物学などの約50学部が挙げられています。しかし挙げられている学科でなくても、それらと同等の科学的トレーニングを受けていることを証明できれば、この条件はクリア可能です。

また証明する代わりに、USPTOの指定する教育機関で所定の授業を受講・単位取得して条件を達成するということも可能です。

試験について

米国弁理士の試験は、日本の弁理士試験と異なり択一式の試験のみで行われます。試験時間は午前3時間、午後3時間で、問題数は午前も午後も50問です。

試験はコンピュータ受験になります。試験の合否は、午後の試験を終えた後すぐにコンピュータ画面上に表示されます。ちなみに合格基準は正答率70%以上となっています。

試験に合格した場合には、後日合格通知が届きます。もしも試験に合格できなかった場合には、30日の期間を空けた後、再度受験できるようになります。

また法文集などの持ち込みはできませんが、コンピュータ上で日本の特許審査便覧(MPEP)を見ることが可能です。

MPEPとは

MPEPとは、米国の審査に関するガイドラインであり、日本の特許審査基準に相当する資料です。そして米国では意匠は”Design Patents”として扱われているため、意匠の審査についてもMPEPに示されています。

MPEPには、出願の審査、審判、特許性(新規性・自明性・適格性)、二重特許などについてのUSPTOでの取り扱いが記されています。米国と日本の特許制度は共通している箇所もありますが、自明性の認定や二重特許の認定など、日本の特許制度と異なる点もあるため、MPEPの勉強の際には、日本の特許制度と異なる点について特に注意する必要があります。

過去問について

試験対策としては、やはり過去問を繰り返し解くことが重要になります。特許弁理士の過去問については、こちらのウェブサイトで購入することができます。

Pass the Patent Bar Exam – Wysebridge Patent Bar Prep

特許弁理士の試験ではMPEPについて問われる問題がよく出ます。そのため、特許弁理士の試験に合格した方の体験記を見ると、過去問を解く、過去問で問われているMPEPを読み込む、という勉強をしていることが多いです。

なお、以前はUSPTOのウェブサイトからも過去問を入手できましたが、現在では入手不可となっています。

注意点

アメリカで特許弁理士になる際の注意する点として、特許弁理士登録時のビザ問題があります。

日本人の場合、

  1. 永住権(グリーンカード)を有している
  2. Patent Bar Examを受験する旨を記載した就労ビザか研修ビザを有し、さらに、米国内に適法に居住する者である

ことのいずれかが要求されます。

また就労ビザの場合、試験に合格しても制限付きの認証(Limited Recognition)となります。制限付きの認証だとUSPTOに登録できず、米国弁理士(Patent Agent)になれないうえ、日本に帰国することで制限付きの認証の資格を失う、というデメリットもあります。

米国弁理士の年収

米国弁理士の平均年収は、フォーブスの記事によると約14万ドル(1ドル145円換算で約2000万円)です。

ただしこの年収は2017年時点であるため、2024年時点ではもう少し高い年収になっていると思われます。

また2020年時点での米国の平均年収は約7万ドルであるため、米国弁理士の年収は米国での平均年収の約2倍となっています。

ただし米国弁理士としての仕事は、ビザの都合上、原則としてアメリカ国内での業務となります。

その一方で、日本の平均年収が約480万円であるところ、日本の弁理士の平均年収は約970万円です。したがって、弁理士の平均年収が日本での平均年収の約2倍であることを考慮すると、米国弁理士と日本の弁理士との間で、実質的な給与面に大きな差はないと思われます。

米国弁護士とは

米国弁護士については、近年小室圭さんが合格したこともあり、聞いたことのある方も多いと思います。米国弁護士は、日本における弁護士、弁理士、税理士、司法書士などの業務をできる資格です。

そして知的財産に関しては、商標に関する出願、審判手続の代理、訴訟の代理をすることができる資格です。

日本国内でも、米国弁護士の肩書をもつ弁理士はしばしば見かけます。その一方で、米国弁護士であっても、米国弁理士の試験に合格していない場合には、特許出願の代理をすることはできません。

米国弁護士の特徴として、州単位で実施される試験に合格することで取得できる資格だという点が挙げられます。そのため、ニューヨーク州の試験で合格した場合には「ニューヨーク州弁護士」となり、カリフォルニア州で合格した場合には「カリフォルニア州弁護士」となります。

また米国弁護士の資格を有する者が、さらに米国弁理士試験に合格し、弁理士登録をすることで、特許弁護士になることができます。

米国弁護士になるためには

米国弁護士になるための方法は、州によって異なる部分もありますが、例えばニューヨーク州の場合、日本の大学の法学部か法科大学院で法律の単位を取得する必要があります。

そしてその次に、アメリカのロースクールであるLL.M(留学生向けのロースクール)を修了し、司法試験に合格する必要があります。司法試験に合格した後は法曹倫理関連の試験に合格し、50時間以上の社会貢献活動をすることで、ニューヨーク州の弁護士として登録することができます。

試験について

試験科目は、州によって異なります。

例えば、ニューヨーク州の司法試験では、400点満点中266点で合格となります。試験科目は次のようになっています。

  1. MPT(Multistate Performance Test)
    • 法律文書起案の試験(2問、配点は20%)
  2. MEE(Multistate Essay Examination)
    • 連邦法に関する記述式試験(6問、配点は30%)
  3. MBE(Multistate Bar Examination)
    • 全州共通の4択式試験(200問、配点は50%)
    • Constitutional Law、Contracts、Criminal Law & Procedure、Evidence、Real Property、Torts、Civil Procedure

また、カルフォルニア州の司法試験では、2000点中1300点で合格となります。試験科目は次のようになっています。

  1. Essay Questions
    • カリフォルニア州法に関する記述式試験(5問、配点は約35%)
  2. Performance Test
    • 法律文書起案の試験(1問、配点は約15%)
  3. MBE(Multistate Bar Examination)
    • 全州共通の4択式試験(200問、配点は50%)
    • Constitutional Law、Contracts、Criminal Law & Procedure、Evidence、Real Property、Torts、Civil Procedure

合格率はニューヨーク州の場合、初回受験の受験生で約5割となっています。

また特許弁護士(Patent Attorney)となるためには、この司法試験に合格し、さらに、先ほど説明した米国弁理士の試験に合格する必要があります。

資格取得のメリット

米国弁理士、米国弁護士は、いずれも、米国での法律に対する専門的知識を有する資格です。そのため、これらの資格を取得することで、次のメリットがあります。

米国弁理士の場合

米国弁理士の場合、英語のスキルと、米国特許実務の知識を生かした業務をすることができます。

そのため、特に米国特許出願をする場合に、米国弁理士の資格は重宝される傾向にあります。

また米国弁理士は、永住権を有しない限り、日本の帰国により認証を失いますが、米国弁理士の試験に合格することで、米国特許実務の知識を有していることを社内・社外にアピールすることができます。

米国弁護士の場合

米国弁護士の場合、商標出願や知財訴訟を代理することができます。その中でも特許弁護士の場合、さらに、米国における特許出願の代理をすることができます。

特に米国は、訴訟の数が日本より多いこと、訴訟の段階で相手方との交渉が多く行われることから、多くの場面で、専門家としての手腕を発揮することが可能になると思われます。

まとめ

米国弁理士や米国弁護士(特許弁護士)は、米国における特許出願や訴訟において強みを発揮する資格です。

その一方で、日本の特許制度と米国の特許制度では共通している箇所も多く、勉強方法としては、日本の制度との違いを中心に勉強することになるため、日本の弁理士の知識をベースにして資格取得を目指すことが多いといえます。

また、米国の特許に特化した資格であるため、米国での特許案件の多い企業や特許事務所・法律事務所では非常に重宝され、より高い給料をもらうことも可能になります。

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